人探し
「あ、これって」
「お目が高い、こちらの商品は現在とても人気のある職人による一級品ですよ、如何ですか? 一点物なので同じものは2つと存在致しません」
「そうなんだ、ちょっとエリ、」
「エリ?」
「えと、知り合いがよく使っているリボンとそっくりだったから」
危ない、ついついエリーを引き合いに出しちゃう
公爵家の存在を示唆するのはボクの身元も公爵家にも良くない、気をつけよう。
そんな一級品に似たものを知り合いが使っている
これは商機の気配がしますね!
マロンの内心とは裏腹にサリーは誤解を重ねつつあった・・・
そして、商会に新たな客エイブラハムが入店した
この店舗は女性の身の回り品を主に取り扱う為、男性客は目立つ。
店員はすかさず接客についた
「いらっしゃいませ、お客様」
「こんにちは、えーっと、彼女にプレゼントを贈りたいのですが」
エイブラハムは如才なく行動する
入店して突然「人を探している」なんて言ってもマナーがなっていない、買い物する印象を与えつつタイミングを見計らって人探しをついでに訊ねる作戦である。
「彼女様へのプレゼントですと装飾品か刺繍糸辺りでしょうか?」
「そうですね、少し見せてもらっても?」
「はい、こちらへどうぞ」
店員は慣れたもので、男性客が買い求める定番品をいくつか用意する
予算、プレゼントの意図、女性の容姿、客の希望
それに該当するものを素早く読み取った。
「・・・これを、いただきたい」
「かしこまりました、お包み致しますね」
「お願いします」
エイブラハムはペアリングを買う事にした
店員がそれを受けて、ケースに仕舞い包装し始めた
「すいません、ちょっとお聞きしたい事があるんですけど・・・」
「はい?」
店員は手を止めてエイブラハムの方へと向き直る
「人を探していまして、この姿絵の人物に見覚えはありませんか?」
エイブラハムが姿絵を出しつつ人探しを口にした途端、店員の柔和な表情が一変した
温かみのある接客用の笑顔が温度を失った。
「お客様、わたくし共は商人で御座います、人を探していると言うのならば騎士団に届け出をしては如何でしょう?」
至極真っ当な正論である
人を探している
それが犯罪者か親しい人かは分からないが、わざわざ姿絵まで用意をしているのに個人を探そうとする行為に警戒するのは当然であった。
夫の暴力に耐えかねて逃げ出した妻子が「善意の情報提供」で地獄を見た、という話は往々にしてある話だ。
商会としてきっちり線引きする規定は整っている
人探しは商会の仕事ではない。
とは言え、だ。
エイブラハムも公爵に命令されている、簡単には引けない
「まあその通りなんですけどね、ちょーっと主人が気にかけてまして・・・」
ね? ちょっとだけ!と姿絵を店員に見せるエイブラハム
「申し訳ございませんお客様、わたくし共は人を売り買いの対象には致しません、どうぞ騎士団か警邏に御相談下さい」
何でも揃うと豪語する大商会も人身売買などの犯罪に手は染めない
そして客の情報を他者に漏らす事も無い
これまでもこれからも、商会として人として譲ることは無い、いち店員であっても徹底されていた。
「客を売れって事ではなくて、目撃情報とかでも良いんですよ、ほら!ちょうどあそこに居る子みたいに栗色の髪のショートヘアー、背丈も正にアレくらいで、年齢は10から15いかないくらい、そう本当にあそこに居る子、みたい、な、男の子なん、だけど・・・」
なんとか食い下がるエイブラハム
視界に丁度よくそっくりな人物が目に入ったので、指を差してあんな感じと言った。
エイブラハムが指を差した先にはマロンが居た。




