商会
ワーナード商会
貴族街からほど近い区画に建つ商会は、ある伯爵家が有する国有数の大商会だ。
貴族御用達、質の良いものを取り揃えていて
日用品、ドレスや宝飾品、剣、馬、その他諸々何でも揃うと評判である。
店頭に来て買い物なんてした事がないマロンは外に引き続き店内も見回していた。
「アンタ・・・」
「え?」
「そんなにもの珍しい?」
「うん、ボク殆ど外に出た事ないから」
「殆どって・・・」
どれだけ箱入りなの、とレナは慌てる。
侍女の先輩達が話していたマロンお姫様説に拍車が掛かった。
公爵令嬢エリザベスと共に過ごした生活
欲しい物は屋敷に商人が持ってくるし、病気や怪我を嫌った公爵とエリザベスにより室内飼いのオコジョ。
公爵はエリザベスに変な病気が移らないように、エリザベスは純粋にマロンを心配して、だ。
年に何回か領地に戻る場合は馬車でエリザベスの膝の上
せいぜい本邸敷地内、領地の別邸敷地内、学校に忍び込んだ時くらいである。
野良時代は食べることに必至で周囲の様子を伺う余裕はなく、最初に酷い目に遭ってからは人の多い場所からは離れていた。
「と、取り敢えずついてきなさい、顔見せする為に来たんだから」
「うん」
とは言っても、店内に入るとすかさず店員が2人に向かって近付いていた。
「これはお久しぶりですキュレオス様、本日はどのような御用向きで?」
「お久しぶりですわマーゴット様、今日は使用人を代表して買い出しに来ましたの」
レナは慣れたように礼をするとメモ書きを店員、マーゴットと呼ばれた歳かさの女性に渡した。
マーゴットはメモに目を通すと頷き
「いつものようにメイベル侯爵家へお届けで」
「ええ、お願いします」
「ところで其方の方は?」
「最近入って来た新人ですわ、マロン」
「はじめまして、マロンと申します」
ボクはちょこんとスカートを掴んで頭を下げた
「!、これはご丁寧に、わたくしめはマーゴットと申します、何かご入用の時はどうぞ当商会をご利用下さい」
「ありがとう、・・・・・・ゴザイマス」
ご利用と言われてもボクはお金を持ってない
買い物は出来ないけど、お店に置いてある物は色々見てみたいなぁ
チラチラと視線を動かすマロンにマーゴットの目が光る
アイコンタクトで控えていた店員サリーに合図を送ると、サリーも了解とばかりに目を伏せて応える。
「そう言えばキュレオス様、先日お探しになられた生地なのですが近い内に納品されます」
「え、本当に?」
「勿論でございます、それと御領地は畜産が盛んだと聞き及んでおりますが少し御相談させて頂きたく・・・」
「う、ウチの?」
「はい」
大商会と取り引きが成立すれば、その産地であるレナの故郷キュレオス男爵領も栄える。
領地が富めると、メイベル侯爵家に行儀見習いとして働いた事も併せて良い縁談も来るだろう、レナの中で明るい未来が輝いた。
「マロン! あたしは奥で話をするから店内でもゆっくり見たら良いんじゃない? 」
「え、いいの?」
「良いわよ、でも勝手に外に行かないこと、いいわね!」
「うん、ありがとうレナ」
「ふ、ふん、アンタの為じゃないわよ、勘違いしないで!」
しめしめと笑ったのはレナか、それともマーゴットか・・・
店の奥にレナとマーゴットは消えて行った
すかさず控えていた店員のサリーが動く
「マロン様、宜しければ私が店内を案内させて頂きます」
「あ、えと、お願い・・・、、シマス」
「私の事はサリー、と」
「サリー、さん?」
「呼び捨てで構いません」
「サリー?」
「はい」
うん?
レナも用事があるみたいで、その間お店を見てて良いみたいだ、やった!
誤字報告ありがとうございます。
水没のせいで時間取れなくて今後不定期になるかも知れません。




