いじわる侍女と
今週は客間のお手入れを教えて貰えるらしい
先々週に何回かベッドメークをやらせて貰ったけど、シワなく綺麗にシーツを張るのはとても難しかった。
「マロン様、本日はこの子の元に付いて頂きます」
「はい」
「レナ、貴女も慣れた頃合いでしょうからそろそろ人に教える事を学びなさい、数を熟す必要はありません、ひとつひとつ丁寧な仕事を心掛けなさい」
「分かりました、メイリース様!」
「では頼みましたよ」
「はい!」
メイリースさんの前で笑顔だったレナは、二人きりになると突然態度を変えた。
「ちょっとアンタ調子に乗り過ぎ」
「え?」
「アンタ平民なんでしょ、あたしは男爵家、意味分かる?」
「私平民、レナ男爵家って意味でしょ?」
「そう、・・・・・・・・・っバカにしてるの!?」
「??」
「いい? 平民と貴族じゃ人としての価値が違うの、同じ侍女や行儀見習いでも平民のアンタと男爵家のあたしでは格ってものが違うのよ」
フフーン!
ドヤ顔でレナ行儀見習いは胸を張った。
レナ・キュレオス男爵家令嬢13歳
畜産が盛んな領地出身、優しい両親と年の離れた兄に甘やかされた彼女は、突如現れたマロンが先輩侍女らに構われてお世話されている事が気に食わなかった。
これまでは自分が1番歳下で先輩達にそれなりに構われていたのに、マロンが現れると同時に全てを持っていかれた。
甘やかされ、家ではお姫様扱いされていた彼女には許せることではなかったのだ。
因みにレナは「侯爵家でお務めしたら良い御縁を得られるから」と家族に送り出されているが
実際のところは甘やかし過ぎてこのままでは不味いと気付いた両親が、現実を知って欲しいとの思いで送り出した事を知らない・・・
数ヶ月だけではあるが行儀見習いの先輩であるレナにマロンを任せたのは、侯爵夫人付き侍女のメイリース
よく考えれば新人に新人を任せることなど有り得ないと気付いただろうに
レナは良い機会だと思い、上下関係を叩き込み使ってやろう、追い出してスッキリするのもいい、と考えていた。
そんな浅すぎる考えと性格を全て見抜かれているなどとは思いもしないで・・・
テキトーに客間の世話を教え、テキトーに仕事を終わらせたレナは早速仕掛けた
「来なさい」
「はーい」
トコトコと歩いてきたのは本邸から少し離れた食材倉庫
保存の効くものは此処に大量に置かれている
扉を開けると大量の木箱が積み重なっていた
「此処にはたくさんの食材が置かれているの、と言ってもじゃがいもと粉物くらいしか無いけど」
「粉物?」
「そ、ほらそこの階段、半地下になっているのだけど、下に小麦粉とか大量に置いてあるの」
「へー」
「ひと袋、小麦粉持って来て」
「うん」
1階部分にはじゃがいもを筆頭に地下茎の野菜
半地下になっている階段下には小麦、ライ麦、その他諸々、主にパンの材料が保管されているのだ。
マロンは言われた通り小麦粉を取りに半地下へと下りる
ギイイイ、バタン、ガチャリ・・・
「んえ?」
丁度最後の段を下りたタイミングで真っ暗になった
保管庫の用途上、気密は高く、光も入らない様になっている
唯一の明かりは開け放した扉から差し込む日光のみ
どうやら扉が閉じたようだった。
マロンは取り敢えず言われた通りに小麦粉を探す
完全な暗黒の地下も身体能力全般が優れているマロンなので、少し闇に慣れるとすぐに見付かった。
「よいしょ」
ひと袋25kgある小麦粉を持ち上げる
当然のことだが、これは料理人の下働きの仕事であって、女性が重いものを運ぶと言う仕事は無い。
そもそも25kgの袋を持って階段を上がるなど普通の少女には無理。
嫌がらせ①
重いものを持たせる
片手で大人を放り投げるマロンには意味の無い事である・・・




