公爵の疑問 3
襲撃を受け、エリザベスが王宮に囚われて1週間
侵入者の人相書きが漸く出来上がった。
警備3人と私、4人の情報がぼやける前に画家に言って描かせた人相書きの出来は完璧だ。
栗色の髪、目付き、眉、鼻、口の配置に色合いなど
間違いないだろう。
背後関係、依頼主、目的、捕まえて全て吐かせてやる
法の裁きなど期待するなよ賊が!
ふはは、震えて眠れ!
公爵がとてもエリザベスには見せられない顔をしていると
横から人相書きを見た公爵夫人が声を挙げた
「あら可愛い子、どちらのお姫様?」
「ん、いや、此奴はエリザベスの部屋に忍び込んだ罪深い野郎で、姫なんて上等なものじゃ・・・」
「貴方何を言っているの? 野郎だなんて、どう見ても女の子じゃない」
「いや、リリスは見てないから分からないんだ、顔はいいかも知れないが大の大人を片手で投げ飛ばし、アダムスの骨を砕く恐ろしい力の持ち主だよ」
「力が強いから男だと言うの? 私には女の子にしか見えないわ、それにアダムスの怪我なんて自業自得でしょう」
「むうう!?」
妻の反論に公爵は口を紡ぐ
そうアダムスの身辺調査を進めた所、多額の借金と良からぬ者との接触が明らかになっていたのだ。
侵入者の件は一部始終伝えてあるがそれを聞いた妻は
「その子本当に賊だったの? 裏切りの可能性が濃厚で、アダムスのことも忠告して去ったのでしょう?」
と侵入者について外敵と認識していない。
「むううじゃないわよ、この子の強さを考えたら警備だって大怪我していたはずなのにそれもないし、そもそも忍び込んだ人間が、人が集まるまで部屋に留まるなんておかしいわよ」
「だが!見知らぬ侵入者であることは間違いない!」
「見知らぬ侵入者が侵入先の警備に手心を加えたり、エリザベスを心配したりするかしらね・・・」
「兎に角!捕まえて吐かせる!アダムスは泳がしておくが、あの怪我では出歩けやしないし筆を取るのも難儀だ、なら此奴から話を聞くのが1番に決まっている!」
公爵は頭に血が上ったままだった
エリザベスに会えない、家令アダムスの裏切り、馬車の襲撃、エリザベスに会えない!
城に囚われ(保護)の身であるエリザベスを連れ戻そうと幾度となく王妃に掛け合ったが、侵入者の件が解決していないんじゃ義理の娘は渡せないわぁ、と言われたのでぐうの音も出ない。
警備を増やすにしても公爵の求める水準の人材で数を揃えるなどスグには無理であった。
「そ、でも首謀者だとか侵入者なんて探す前にマロンちゃんを見付けないとどうなるかしらね、エリザベスには屋敷で静かに過ごしているって言ったのでしょう?」
「・・・・・・」
「公爵家の家令の裏切りも事件の真相も良いけど、マロンちゃんが居ない事を黙ってたなんて知れたらエリザベスは二度と口を聞いてくれないかも・・・」
「探してるさ、捜索隊を二割も費やして・・・」
「あらそう? エリザベスなら全捜索隊を投入してるでしょうけどね、貴方にとってのマロンちゃんと、エリザベスにとってのマロンちゃんへの意識の差はそのままエリザベスから貴方へと返ってくるって気が付いてる?」
「・・・全捜索隊の対象を侵入者とマロンにして探させる、これでいいだろう・・・」
ぐぬぬ、と眉間に皺を寄せていた公爵が折れる
夫人は「よろしい」とばかりに笑顔になる
「では私はお茶会に出掛けて来ますわ」
「ん? またか? 危険があるかも知れないのだから、あまり・・・」
「この様な時だからこそ情報を集めるのでしょう、閉じこもっていても仕方のない事だし、王都内は騎士団の見回りも増えているから大丈夫よ」
「・・・護衛は増やす、3倍だ」
「ふふ、ありがとう」
「家族を守るのは当たり前だ、今日は何処のお茶会だ?」
「メイベル侯爵家よ」
「気を付けて行ってきなさい」
「はい、行ってきますわアナタ」
またメイベル家?
妻は先だって侯爵夫人からの誘いで会いに行っていた
公爵は疑問に思ったが、女性には女性の付き合いがある、深くは考えなかった。




