未来へ向けて
「それにしてもアラン、今日は早かったわね」
「昨夜斬り合いをしたので特別休暇を言い渡されました、レオン様には要らないと言ったのですが」
昨夜の襲撃を受け、斬り合う事になった護衛騎士とアランには静養する事が命じられた。
怪我の治療という名目で与えられた休みは精神ケアの一環でもある。
王族に仕え、王子を守る大義があるものの
人を斬って平気で居られる者は少ない
ゆっくり日常を噛み締めて鋭気を養う期間である。
「あら良いじゃない、ちょうど良かったわタチアナ、クロード、マロンちゃんにお屋敷を案内してあげて、アランは残りなさい、話があるから」
「はーい」
「はい」
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ぞろぞろと部屋から人が出て行った
残ったのはアランと夫人、侍女のメイリースは脇に控えている。
「話とはなんですか母上」
腰を落ち着けたアランが聞いた
母が話があると言った時に、その様子から真面目なものだと感じている。
「マロンちゃんの事だけど、アランはどうするつもり?」
「どう、とは?」
「拾っておしまい、ではないでしょう?」
物事をハッキリ言う母にしては珍しくフワッとした言い方
恐らく自分の考えを探られているのだと、アランは今日レオンと話した事も踏まえて、言葉を口にした。
「公爵家に・・・、エリザベス様の元へ戻せるようにと考えています」
王家に伝わる日記、「賢獣」「神獣」と呼ばれる存在
動物が人になるなど、俄には信じられない事実だったが
夫人とタチアナの目の前で黒猫クロが光り、人と化したのを自らの目で確認している。
マロンもそうだと言うのならば、そうなのだろう
アランも夫人も元々疑う気持ちは少なかったが、王家の情報が追加された事で確信した。
「・・・」
「母上?」
一通り話し終えると夫人は言った
「公爵家に戻せるよう手配をするのは分かったわ、それで?」
「はい?」
「はいじゃないわよアラン、貴方がマロンちゃんを拾って来たのだから最後まで責任をもって世話をするのが筋でしょう?」
「それはそうですがだからこそ公爵家に、・・・先程から何が言いたいのですか、まるでマロンの事を猫かオコジョのように言っ・・・」
母がマロンの事を拾って来た動物のように言うので反論しようとするアラン
言いかけて、とある事に気付く
夫人は、やっと気付いたかと深くため息を吐いた。
「気付いた?」
「ええ、完全に忘れてました」
そうだマロンはもうオコジョじゃない、人だ
「公爵家に戻れるように手筈を整えるのは良いわ、私も反対しない、でもそれからマロンちゃんはどうするの、どうなるの、あの公爵がエリザベスさんの近くに置くことを簡単に認めるとも思えない」
公爵が愛娘を溺愛しているのはレオンとアランに限らず、社交界では有名な話である。
そんな公爵がマロンの存在を認めるにしても、公爵令嬢の傍に置くにはそれなりに理由がなければ長続きはしないだろう。
「戻してめでたしめでたしとは行かないわ、最初は良いけど、情けで得た立場なんてその内壊れる」
「・・・」
指摘の通りだと思ったアラン
今後について再考しなければならないと考えを巡らせた。




