企み
マロンと夫人による話し合いは途中昼食を挟み、午後のお茶の時間まで掛かった。
夫人の考えではマロンの教育に多くの時間が掛かると読んでいた為である。
クロードの時は計算が得意で、敬語は使えるものの平民気分が抜けないのか礼儀作法は落第点ギリギリ
人間関係はスムーズに適応出来たので、屋敷内での行動も割と早い段階で制限が外れた。
マロンは破格の知識と能力を有していることが判明したが
今すぐに働かせられるかと言われるとコミュニケーション能力に難があった。
昼食はマロンの大好きな肉が出た
好きなものはエリーとヒーダ領とマッサーカ領の肉!
そう言ったのをさり気なくキッチンに報せていたのだ。
「に、肉!」
肉だ、肉肉!
あっ!いけない、ついつい頭から突っ込みそうだった
ボクは人間、ボクは人間・・・・・・・・・、よし!
「いただきます・・・」
「はい、どうぞ」
ソワソワしたマロンを優しく見守る夫人
朝食の様子は侍女を通して夫人に伝わっていた、マナーも出来るとは聞いていたが、さて・・・
そんな視線にマロンは気付かない、肉が目の前にあるのだ
熱々の美味しいうちに食べるのは肉への礼儀、オコジョ時代から通ずるマロンの信念は変わらない。
「・・・」ッス・・・
かぶりつきたい衝動を身に納め、ナイフとフォークで小さく切り分けては口に運んだ。
「っ!!」
ンンーーーーッ!!
美味しい!
人の身で食す初めての肉は最高だった
オコジョの時はレア、味付けは塩のみでかなりの薄味
動物の身体を労る作り方。
しかし、今度は料理人が存分に腕を奮った肉料理
秘伝のソース、ガーリックの香り、飴色の玉ねぎに
そしてジュウジュウとあげる音、美味しくない筈がなかった。
エリザベスに捧げた99パーセントの魂を瞬間的に半分持っていかれてしまった。
餌 付 け 完 了
あ!違う違う!
ボクはエリーに忠誠を誓っているからね、こ、こんな肉だけで媚びるなんて思わない事だよ、ふふん!
肉を口に含み恍惚な表情を見せたかと思えば、ハッとして首を振り
うんうんと頷き、ドヤ顔になる。
そんなマロンを見て夫人はクスクスと笑った
微笑まし過ぎる、幼い頃のタチアナを思い出してしまった。
「マロンちゃん美味しい?」
声を掛けられたマロンはフォークとナイフを静かに置いて居住まい正した。
「と・・・」
「と?」
「——————————————っても、美味しい、・・・です」
溜めに溜めた感想に周りに控えていた侍女達もクスリと笑った。
「そう良かった、でも困ったわね」
「え?」
「お肉ってね、とても高価なのよ? ウチもそれなりに給金は出しているのだけど、このお肉だと月に1度食べられるかどうか・・・」
「そんな・・・」
夫人の言葉にマロンは絶望した
肉が月1? そんなの耐えられない・・・
無論、安い肉もあるがマロンは量、質共に求めるタイプだった。
公爵家で慣らされた舌は野良時代に戻ることを拒否している。
目の前の肉は客人に振る舞うもので、使用人が口にする肉ではないのだ。
「それでね————————」
悪魔は囁いた、甘い、とても甘い言葉を・・・




