経験
「ねえマロンちゃん、これらの知識はどこで覚えたの?」
夫人が疑問に思うのも当然である
昨夜オコジョから人になったばかりのマロンがこんな知識を有している事が信じられない。
クロードは前世の記憶を持っていて、理系の大学も卒業している
計算などの応用が効くものはそのまま活かせたし、逆に歴史や地名など、この世界特有の知識はイマイチ
文字や筆使い、インクの着け具合は書いている内にクロードは早い段階で慣れていた
マロンは用紙を滲ませてしまったり垂らしてしまったりと文具の取り扱いに差がある。
「エリーと一緒に勉強していたよ、・・・ました」
「エリー・・・、エリザベスさんと一緒に?」
「うん、あ、はい!」
「奥様」
「ええ・・・、まさか」
そのまさかである
エリザベスの家庭教師の講義にはマロンも同席していた
大人しくしていたオコジョは追い出される事なく
5歳でエリザベスの教育が始まった時、オコジョ2歳から
12歳での教育終わり、学校の復習をするエリザベスの傍らに常に居続けたのだ。
全部とは言わないが大半の事をマロンは覚えていた
因みにエリザベス、マロンと似た環境であった黒猫クロはぬくぬくと寝ていた為、殆ど記憶にない。
予想外にマロンに学がある事が判明したので、夫人は少し考え込み、とある事に気付いた。
『マロンちゃん、私が話している言葉は分かる?』
「うん」
「!」
『話せる?』
『うん、隣国の帝国語だよね』
『そのまま自己紹介して』
『えっと、ボクの名前はマロン、好きなものはエリーとヒーダ領とマッサーカ領のお肉!』
『あら、ウチのアランの事は好きじゃないの?』
『アランも好きー!』
「・・・素晴らしいわ」
「素晴らしいですね」
「?」
夫人と侍女メイリースは感心した
発音は若干怪しい点もあるが、これも文字を書くことと同様に慣れていないだけ、流暢に帝国語を話していた。
つまりマロンは公爵令嬢と同じ教育を受けていた様なものである。
社会性が乏しいマロンは自分が有している知識の価値を全くもって理解していない為
働く=侍女か従者、程度の考えしかなかったが
下働きなどとんでもない、能力だけで言えば高位貴族や大商会に嫁ぐ、外交官、通訳、翻訳などなど
出来る事を任せる?
出来る事は多い、素直な気質は少し話しただけで分かるほど見て取れる
十分に信用の出来る人間だ。
これなら・・・、夫人はニヤリと悪どい笑いを心の内に閉じ込めた。
『ボク、働ける? ですか』
ただ、少しばかり敬語と対人関係においての経験は必要だった・・・




