労働
「ごちそうさまでした」
「お口に合いましたでしょうか」
「うん!」
「それはよろしゅうございました」
「なんか俺の時と対応違くね?」
マロンの待遇は歓待を受ける客人
クロードの時は不届き者として大変だった
「不浄なモノを奥様とお嬢様に晒した男と、アラン様がお連れした美しい女性を一緒にしろと?」
「ナンデモナイデース、スマセーン」
「クロード、言葉遣いに気を付けなさい、それと食事の際も音を立て過ぎです、マロン様の所作を見習いなさい」
「待って、こいつのこれはメッキつーか、ハリボテだから」
「こいつ?」
「マロンですね・・・」
「親しい間柄のようなので敬称については構いませんが、普段から心掛けないと身につきませんよ」
「はい・・・」
黒猫クロ改め従者見習いクロード
基本的に侯爵家に居る使用人全てから指導を受ける立場に居た
侯爵家に仕えるには知識とマナー、振る舞いとあらゆる面で不足していたのだ。
前世が日本人、20代で転生を果たしたが
一般的な庶民のそれなりのマナーと振る舞いでは貴族に仕えるに耐えないもので
ナイフとフォークは扱えるが、それが正式なマナーを修得しているかと言われればとても怪しい
お辞儀ひとつをとっても、頭は下げるが優雅さは足りない
そんな具合で基礎はあるのに洗練されていないのであった。
男性同士の友人で「こいつ」と言うのならば多少のお目こぼしもある、しかし男性が女性に対して「こいつ」とは、友人であってもあまりいい印象はない為に指導が入った。
「クロスケ?」
「あー、俺な、此処で働かせて貰ってるんだわ」
「え!?」
「いや、そんな驚く程でもないだろ、働かざる者食うべからずってな! 働いて金を稼ぐ、金を稼いで生活する、当然だろ?」
ぶっちゃけたところ侯爵家で働けるのは平民では破格のエリートである。
住み込みで食事あり、給金は良く、身の安全は保証されるのだから。
階級社会であるこの国で、貴族の匙加減で物理的に首が飛ぶというのは往々にして良くある話なので、身元不明の出自も怪しいクロードにとっては最高の職場なのだ。
打算的ではあるが、野良猫時代から拾ってもらい
世話を見てもらった侯爵家とタチアナに恩義も感じているのでクロードに不満はなかった。
マロンが知るクロードは、動物仲間で歳上の先輩
人としての生活は殆ど語ることがなかったので
突然クロードが大人になったように感じ、驚きと小さな焦りの様なもやもやが胸の中に生まれた。




