敵か味方か
「その毒を渡して」
「・・・」
「アダムスがそれを受け取ったのを見たし、さっきのはエリーを襲った奴の仲間でしょ」
上手く立ち回れば優位に進められる交渉も
マロンではそうもいかない
賢さを駆使してエリザベスらと会話していたと言っても
結局の所はペットの域を出なかったマロン
そしてペットとして扱われていた為に、対人の会話術というもののスキルが絶望的に不足していた。
エリザベスが公爵令嬢で屋敷内の使用人の大半は言うことを聞いていた事も手伝い
マロンは転生者であるが記憶を引き継いでいないので
実年齢12歳の通りの自意識
人として初めて会話というものをしたのがこういった場面なのは、マロンにとって完全な不運であった。
長年公爵を欺いていたアダムスは全てを見たと言うマロンの話を聞いて
ある程度相手に対して当たりをつけた
最初は公爵の雇った影のものかと思った
見た目は子供でも中身はそうでは無い人間が居ることを知っていたからである
しかし、話し始めたマロンの言葉は拙く
本来なら自分はどれだけ知っているのかさえ駆け引きの材料にする事も無い
これは只の子供だ
何故子供が居るのか、公爵の手の者だという可能性は未だ否定出来ないが上手く言い逃れ出来そうだと内心ほくそ笑んだ。
「何の話だか分からないが、子供とはいえ此処は公爵邸、忍び込んだとあれば捕まえられてしまうよ?
まあ子供に侵入されたとなれば警備の首も飛ぶし、君もタダでは済まない、見逃してあげるから此処から出て行くといい」
見逃してあげる
貴族邸宅へ不法侵入の子供は五体満足で外へ出られる
職務上では警備は流石に見直さないといけないが、アダムスにとっては穴をいくつか開けておかないと今後動きにくくなる。
相手を思いやったような言葉だったが
その実、全ては自分に都合のいいように動かそうとする言葉である。
「・・・」
マロンは「何を言っているんだコイツ」と黙った
先程のやり取りを見た以上、マロンの中で既にアダムスは「敵」であった。
公爵家に対する裏切り、特に大好きなエリザベスの部屋で毒の瓶と破滅を匂わすセリフを吐いた敵の言葉を聞く程お人好しではない。
アダムスはマロンの沈黙と動きがない事を都合良く解釈した
(金か? ふん、浮浪者が考えそうな事だな)
土と血がこびり付いた布を体に巻いただけ
しかも裸足の子供となれば孤児が忍び込んで盗みに入った
そう思い込んだ。
アダムスは懐に手を入れると金貨を一枚取り出してマロンへと投げる
「?」
マロンは飛んできたものをキャッチした
「ほら、金が欲しいんだろう? これで出て行くんだな」
ニヤリと笑うアダムス
相手が金貨を受け取ったとして、これで解決だと安心する。
アダムスが最も困るのは、この場を他の使用人に見られる事だった
子供は誤魔化せても、公爵らに疑念を持たれては自分の身が危うい
さて、これで・・・
「ん?」
金を受け取ったのに、未だに立ち尽くす子供を見て眉を寄せる
(強欲なゴミが! このタイミングでなければ無礼打ちしている所だ)
金貨の二枚目を考え始めたが、
「ボクが、・・・エリーを裏切るわけないだろ!」
ゴッ、ドガンッバキバキ!
金貨を握り締めたマロンの拳がアダムスを捉えた。




