悲喜交々
なんだこれはどうなっている。
アランは困惑していた、マロンと心穏やかに過ごしていたのに彼女が何故我が家の庭園に・・・
彼女と言っても特定の意味を含んだ付き合いがある訳では無い、ただ彼女の家から縁談が届き、それ以降社交の場で何度も話し掛けられていただけだ。
そもそも会う約束などしていないのに、屋敷の方へ視線を巡らせると2階窓際に望遠鏡を構える母が・・・
隣に兄も居て「すまない止められなかった」と言いたげな
表情で両手を合わせていた。
全部、母か・・・
それにしても何というタイミングで顔を合わせるのか
マロンが支えとして抱きついているから、まるで浮気の現場でかち合った妻と不倫相手のようだ・・・
こういう時のアランは「失礼、仕事があるので」と言ってそそくさと逃げるのだが、怪我をして療養しているのでその言い訳は無理があった。
足も痛いので早歩きで撒けもしない・・・
***
「貴女、アラン様の何?」
「友達」
「名前は?」
「マローネ・リュミエール」
鋭い目付きで見ていた女の子はボクの名前を聞くと「貴女が・・・」と言って、一度フウと息を吐いた
「申し遅れましたわ、私はカーマイン伯爵家が娘オデット・カーマインと申します」
「初めまして!ボ・・・、わたくしはリュミエール伯爵家のマローネと申します」
挨拶を返すと女の子、オデットさんは無言で頷いてから口を開いた。
「お兄様がお世話になったようね、ありがとう」
「お兄様?」
「ええ、私も詳細は教えて貰えなかったのだけどお兄様は騎士を務めているの、職務中貴女に命を救われたと感謝しておりましたわ」
「あ・・・」
「オデット嬢それは、」
「解っていますわ、機密事項に該当するからと誰にも言えない事は、それでも受けた恩に関して礼は言わなければカーマイン家の名折れ」
誰だろ?
多分トカゲリオンと戦った時に危ないから放り投げた騎士さんか、食べられそうになった時に殴っちゃった騎士さんかな?
あの時の事に関しては関係者全員に箝口令が敷かれているからボクも下手なことは言えない、伯爵家にも迷惑になるしね。
「コホン、それはそれとしてマローネさん!」
「はい」
オデットさんはボクを扇子で差して言った
「アラン様は渡しませんわよ!」
「はい?」
渡す?
意味が分からなかったから、アランの方を見るとアランは困ったような顔で何か言いたそうにしていた。




