家族と家族
すうすうと寝息を立てて眠るマロン
仰向けになって上掛けを蹴っ飛ばしていたから掛け直す
そっと頭を撫でるとキウと私の手にすりついた。
朝、王妃様の宮から元気よく飛び出して行って
オコジョの姿でタオルに包まれて帰ってきた。
送り届けてくれたクロード様はタチアナのクロで、また頭が混乱したけど問題はそこじゃない。
マロンがオコジョに戻ってしまった
私としては馴染み深い姿だけど、やっぱり令嬢姿の方がマロンは幸せになれると思う。
戻れるのかな・・・?
ひとまず王妃様の許可を得て、マロンかかりつけのお医者様を呼ばせて頂いた。
本来なら男性の立ち入りが厳しく制限されている場所だけど、お医者様は昔王宮で侍医を務めていた先生なので問題なく入れた。
先生によると極度の疲労、過労なのだと言う
毛の艶、歯の状態、心音など総合的な判断としては健康そのもの、お腹が空いたらじきに起きるでしょうと診断されてホッとした。
診断後、すぐに王妃様からリュミエール伯爵家へは早馬が向かった。
一時的とは言っても王家預りの令嬢がこうなってはイリア先生に伝えない訳にはいかない
なにより人になってから1番長い時間をマロンと過ごして来たのは養母のイリア先生だ、何か知っているかもしれない。
***
次の日、イリア先生は宮を訪れた
私は朝食を済ませた後もゆっくりする気になれずマロンの枕元に座って様子を見ていた時だ
パタパタパタ・・・、バンッ!
「マロン!」
あのイリア先生が走って来た、私には目もくれず大きなベッドに眠るマロンに縋り付くように駆け寄る。
「キウ・・・、フギギッジュルル・・・」
マロンは仰向けでバンザイ、ヨダレを垂らしつつギリギリと犬歯をむき出しにしていた。
これはお腹が空いた時の寝癖だ、そろそろ目覚めるかも・・・
先生はマロンのお腹を優しく撫でる
撫でられたマロンはハシと手を抱きしめ、先生の指を甘噛みする。
「あぐあぐ・・・、ジュルジュル・・・」
のんきなマロンに先生はホウと息を吐いた
すると近くに座っていた私と漸く目が合った、居たの? と瞳が語っていた、完全に私が見えていない程に動揺していたイリア先生。
ああ、マロンが嬉しそうに先生の事を語るのは本当だ
貴婦人然としていた先生の母としての顔、マロンを心配して駆けつけたんだ。
いつも隙のない先生の髪のセットは少し乱れていた。
「ン、コホン、お久しぶりですねエリザベスさん」
ひとつ咳払いをして淑女に変化した先生は、マロンのヨダレを拭いつつ挨拶をしてくる。
つい、私は笑ってしまった
「ふふ、おはようございますイリア先生」
先生は僅かに頬が赤くなった、かわいい・・・
***
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、最初は私も寝起きで夢かと思っていたら、週に2度は朝オコジョになっていましたよ」
寝室から出て私はお茶をしながら先生の話を聞いていた
マロンはオコジョになる事が何回かあって、大体は早朝
そして寝直して起きると元に戻っているそうだ、良かった・・・
私は先生の知らないオコジョマロンの話を
先生は私の知らない令嬢マロンの話に花が咲く。
マロンのことを話す先生の表情はとても柔らかかった
話しているといつの間にかお昼が近くなっていたのか
遣いが来てマロンの食事はどうするかと聞かれる
「病人食の方が宜しいでしょうか?」
私とイリア先生は顔を合わせて言った
「お肉で大丈夫です」
「そうね500gをふた皿は準備しておいた方が良いわ」
クスクスと私達は笑う
結局、ぴったりお昼にマロンは起きて来た
「ママ、エリーおはよぉ、お腹空いたー」
そう言ったマロンがステーキ3枚を平らげたのは流石に予想外で、私達は端なくも声を上げて笑ってしまう事になる。




