王妃の宮 2
「マローネさんは本当にお強いの?」
それは王太子妃ニナさんのひと言から始まった
ボクは多分それなりに強いと思うけど、多分訓練していた伯爵家の護衛は手加減してたと思うんだよね。
お兄ちゃんは「女に向かって本気でやれるか」って言ってたし。
「ニナ様マロンはとても強いですよ、騎士団へ入る予定だったギリアム様を投げ飛ばしてしまうくらいですから」
「エリザさんとレオン様を疑う訳では無いのですが、やはり愛らしいマローネさんを見ると「最強の護衛だ」と言うのも・・・」
「まあ・・・、私も実際助けられてなければマロンは強いなんて言えませんけど・・・」
「簡単よ、試しに廊下に立っている騎士と手合わせさせてみれば良いのよ」
「「え?」」
「だってそうでしょう? マローネさんはレオンとアランのお墨付きでエリザベスさんの護衛という名目で此処に来たけど、言われて信じた騎士も多くないと思うわ、それなら実際に見せ付けてやれば良いじゃない、私も見たいしね!」
「それは・・・」
「まあ、確かに、」
王妃の本音は、息子達が言うのだから強いのは疑いの余地が無い。
ただ王太子妃ニナが疑問を持つのも理解出来る
屈強な騎士団を知らないレオンとアランではない、なのに最強と言わしめる彼女の実力は如何程か、確かめてみたい見てみたい。
そして騎士が選ばれた。
「という訳でロレンス、貴方の実力を見込んでマローネさんと戦ってもらいます」
「はあ・・・」
騎士ロレンス21歳。
伯爵家三男坊、その若さにして近衛に配置されるほど優秀な人材。
腕っ節は強いが最近鼻が伸びてきたのか、王太子妃とエリザベスに対して「ふふん、惚れるなよ?」といった具合の色目を送っている。
国の最高位淑女である王妃、王太子妃、公爵令嬢達はそんな彼を「男の子ってそういう時期ありますよね」と生温く見ている事を知らない。
騎士団幹部は近い内にシメてやらないと、と話していたので良い機会だからとマロンの対戦相手として王妃に選ばれた。
尚、当人は王妃様御指名!と勘違いを重ねている。
「怪我しても知らねえぞ?」
鼻でフンと笑った彼、ロレンスは目の前に立つマロンを睨めつけた。
まあ適当に打たせてやって、軽く撫でてやればそれで終わりだ。
・・・なんて思っているんだろうなあ
レナは生け贄を憐れみ、心の中で十字を切った。
室内の壁際にそれぞれの侍女らも空気となって佇んでいる
その中でマロンを知るのはレナのみ
他の侍女は流石高位貴族に仕えるだけあってあまり顔には出していなかったが、それでも伯爵令嬢が騎士と手合わせと聞いて不安そうに見詰めていた。
「マロン大丈夫? 気を付けてね?」
「大丈夫だよエリー、上手く手加減するから!」
「・・・」
素直にマロンを心配するエリザベス
本職の騎士を目の前に手加減とか言ってしまうマロン
一瞬ピクリと引き攣る騎士
なんとも言えない空気が部屋には出来上がっていたが
王妃は娯楽を覗くかのように扇で口許を隠しにやにやとしていた。




