事件 2
ガヤガヤと賑わっている大きな会場
エリーが通っている学校の大講堂を使った卒業パーティーにボクは来ていた。
講堂内はダンスホール、楽団、料理や飲み物のテーブル
休憩所に、演し物の為の特設ステージといった感じで設営されていた。
壁際にはボク達のように各家の使用人が控えている
本来の夜会では会場に使用人が待機することはないらしいけど、今回のパーティーで卒業生はアルコールが解禁される。
半分公式な場で、半分非公式な場
実際の夜会に近い状況でアルコールとの付き合い方を覚える為の最初にして最後の場所、そんな一面があるらしい。
だから近くに使用人が控えて、マズいと判断した時点で帰らせるとか・・・
「ははっ、王族が昔酒で大失態したからって、こんな場を設けるなんてウケる」
「あら、そう言うクロードは飲めるの?」
「俺はそこそこ、まあ限界は知っていますよお嬢様」
クロスケとタチアナがお酒について話していた
「マロンは? ってまだ試すにしても早いか」
「お酒って美味しいの?」
「人によるのかしらね、私は全く飲めないから分からないけど」
「マロン、お嬢様は飲むとな・・・」
「ぎゃー!ちょっと止めなさい!」
お酒との付き合い方は既に家である程度覚えるのが慣習になっているらしく、タチアナも家で飲んだけど弱くてふにゃふにゃになったらしい。
「もう、止めてよねクロード、次余計な事言ったらお父様に言い付けて従者教育再履修させてやるから」
「すません、勘弁してください・・・」
クロスケは侯爵にまだ警戒されてる
タチアナの仮の傍付きに最近なれたけど、しっかり務めないと先輩にチクチク言われるから大変とか。
「それにしてもエリザベス様遅くね?」
「そうね、侯爵令嬢が入場してから随分経っているけど・・・」
入場の順番は爵位順、男爵家から始まり既に侯爵家のタチアナが入場して半刻くらい経っていた。
「うーん、おかしいわ」
「おかしい?」
「ええ、他の卒業生も揃っているのにエリザベスとレオン様、リオン様だけ居ないもの」
「遅刻とかじゃねえの?」
「それは無いわ、エリザベスにはレオン様とお兄様が居るのよ?」
「あ、れ・・・?エリー?」
「「えっ!?」」
ふと、大講堂の入り口の方向が騒がしくなったので見ると
エリーが1人で入場して来た。
「1人なんてっ」
慌ててタチアナが駆け寄って行く
ボクも行きたかったけど我慢した、今日のボクはあくまでもタチアナの侍女だ、うう・・・
「おいマロン、気付いたか?」
「え?」
「レオン、様がエリザベス様をエスコートして来ない事もおかしいけど、それならせめて傍付きの使用人が一緒に入場して来るだろ、なのにエマリーさんの姿は見えない」
「あ、」
「まあタチアナ、お嬢様が行ったから後から確認出来るけど、それにしても・・・」
確かにおかしい、ボクだって屋敷に居る時は必ず傍にレナか誰かが着いていた。
要るとか要らないとか関係なく、家でも外でも令嬢が1人で行動するなんて有り得ない。
エリーの隣にタチアナが並ぶとホッと安心したように話し始めた。
公爵令嬢のエリーが、仲睦まじい筈のレオンと入場しない事で周囲が騒がしい、ざわつきのせいで会話は聞き取れなかった。
「ねえクロ・・・」
「皆、聞け! 私レオン・ヴェルレクはエリザベス・マスティーゼ公爵令嬢との婚約を破棄する!」
え、と声のした方を振り向くと、いつの間にか催し物のステージ上に数人の男の子が立っていた。
男の子達はエリーの方を睨み付けていて、その後ろにはいつの日だったか学校に忍び込んだ時に見たアタマのおかしいと言われる令嬢も一緒に居た。




