なりたいもの
お茶会は成功した、らしい。
ボクは手紙をやり取りする相手が何人か出来たけど
社交って大変なんだね。
テーブルについてから話しかけてきた3人組はボクをイジメに来ていたことを、お茶会の後にママとレナに言われて知った。
エリーがドレスを着て出ていく時、キリッとしていく意味が分かったよ。
油断をするとイジメられる、家のこともその一員として影響がある怖い場所だと思った。
ママが言うにはデビューしたという事実だけあれば十分との事で、当分お茶会や夜会に出る必要はないらしい。
「皆かかれえっ!」
「っと、」
ボクは数人に囲まれていた、前に4人、後ろに3人
足元には蹲って動かない男の人、彼を守らないといけない。
号令と共に正面から3人、1人は剣をボクに向けて指示を出している
でもこれは囮だ、本命は後ろから襲い掛かる2人
足音を消しているけど風の動きで解る
囲まれたくないから先ずは足元に蹲る彼のベルトを掴んで持ち上げる
「うわっ!?」
「とー!」
後ろから来た2人の頭上を飛び越える
2人は剣、そして残りの1人は槍だ
飛び越えたボクに向かって槍が突きこまれたけど、体を捻って回避、そのまま槍の上に着地だ。
「ぐっ、・・・うぎゃ!?」
穂先が地面に突き刺さった
そのまま槍の上を走ってボクは相手の顔を踏み付け、壁へと向かってジャンプした。
「おええ・・・」
なんか聞こえるけど無視、緊急時はそんな事に構ってられない。
壁の上には弓矢を持った人が慌てて矢を放ってきた
パシ
「は?」
空いてる手で矢をキャッチすると、それを投げてお返しする。
取り敢えず持ち上げていた人も離して、その場に置いた
眼下を見下ろすと槍の人が頭を振って立ち上がり、剣を持った6人がボクを見上げていた。
ボクはドレスの裾を押さえつつ、数mの壁の上から飛び降りた。
「ハアアーッ!」
槍の鋭い一突きを躱して、柄を掴む
そのまま思い切り横に振り回して放り投げた
「う、わ、ぉぉぉわぁぁ!!」
ゴツンと壁に叩き付けられて動けなくなる、よし次。
「掛かれ掛かれー!意地を見せろお前ら!」
ボクから見て一番奥の人を除く5人全員が襲い掛かる
右から突き、左から切り上げ、正面から袈裟斬り
更に後ろから遅れて2人がボクの動きを見ている
左に避けても右に避けても対応しそうだ
「えいっ」
「え?」
正面の袈裟斬りを掻い潜って抱きついた
足を引っかけて、投げっぱなしに地面に叩きつける
ドッスンッ
「ぐっ、ふ・・・」
「うわ・・・、痛そ・・・」
「う、うおおー!」
「やれー!」
「うわああーー!」
叩きつけられた人を見て皆が「うへえ」と言って固まった
間近の左右から横凪、正面2人は袈裟斬りと逆袈裟で向かってくるのを見極め、ボクは一人一人倒すことにした。
***
「「「「参りました!お嬢様!」」」」
「えと、お疲れ様でした?」
手合わせを終えて、伯爵家の警備の皆がボクに頭を下げる
「いてて・・・」
「ははは、お前ぶん投げられてやんの」
「うるせえ、お前こそ顔を踏まれてんじゃねえか」
「見え・・・、見え・・・、・・・なかった」
「よお、お嬢様に抱きしめられた感触はどうだった?」
「すげえいい匂いがした、柔らかくて・・・、そんで・・・地獄だった・・・・・・」
「くそっ、俺もアレ食らいたかった、俺なんて腹パンだぜ・・・」
「バッカお前、コラ、お前コラ、呼吸止まって死ぬかと思ったわ・・・」
皆は思い思いに反省会を始めていた、ボクはドレスをバサリと払って土埃を取る。
「マロンは強いんだなぁ、よっと!」
「わ、パパ?」
訓練を見ていたパパが片腕に沿うようにボクを抱き上げる
もう片方の手でヨシヨシと撫でてくれた、えへへー
「あらあら仲良しね、マロン大丈夫? 怪我はない?」
「うん、大丈夫だよママ」
ママは心配そうに来るとボクの無事を確認してホッとしていた。
ボクが目指すのはエリーの侍女だ
エリーを守る侍女、護衛侍女。
今のエリーには専属侍女としてエマリーが就いている
以前公爵家に居た頃、エマリーは週に1度護身術の訓練を行っていた。
但し護身術と言ってもエマリーの身を守る為のものじゃなくて、エマリーが身を以てエリーの盾となる訓練。
ママによると、現在謎の襲撃者によるエリーの環境を考えると公爵は是が非でも武に優れる侍女が欲しいとのことだ。
男の護衛はあの公爵が許さないだろうとも、それはボクもそう思う、婚約者のレオンでさえも認めるまでに数年掛かりだったから突発的に護衛を増やすとしても身辺近くは譲らない。
女性騎士は数が少なく、王妃の身の回りに数名限り
そこを突いてエリーのもとにボクは戻ってみせる。
今日は人を守る為の訓練をした・・・




