お茶会デビュー 2
「マローネ、良いわね?」
ママの合図と共にボクは意識を切り替えた
ボクは・・・、いいえ今からわたくしは伯爵令嬢マローネ・リュミエール。
「はい、お母様」
マロンの表情が一変する
目は若干細められ、背筋を伸ばし、纏う雰囲気は朗らかなものからピリっと引き締めたものになる。
真似をするモデルは先生、そしてエリザベス。
令嬢になって、たったの1ヶ月
平民から貴族になった人間にとっては短過ぎる期間
だからこそマロンはデビューする。
知られている情報が少なく、そしてたかが平民あがりと安く見積もられている今だからこそだ。
実際の所はイリアの授業の大半をエリザベスと共に受けていたマロンにとってマナー自体は問題ない、ただ使う習慣がなかった為に普段はのびのび過ごしているだけである。
やろうと思えば出来る
豹変するマロンを、レナは苦笑いしながら見ていた。
この1ヶ月間、マロン専属のレナは勿論1番近くに居た人間だった。
夫人はマロンをそれはもう可愛がった、実の子のように、そして幼子のように。
共に寝て、共に食べ、共に笑う
移動する時は手を繋ぎ、常に寄り添っていたのだ、しかも旦那様も・・・
レナの知る養子はもっと冷たい関係だ
旦那様は人格者として、夫人は教育者として立派な人物と知られているので流石に使用人任せにはしないだろうと思っていた。
それにしても予想を上回る親身な態度と溺愛具合にはレナのみならず他の使用人も少なからず驚いていただろう・・・
夫人はしっかりと計画を立てていた。
マロンに寄り添い、生身の彼女を知る
逆に自分の事も知ってもらう努力もした。
紙数枚だけで親子になりましたと言って人間関係が築ける訳では無い、マロンは先生であるイリアしか知らないし、イリアはオコジョのマロンしか知らないのだから歩み寄ることが第一と考えていた。
信頼関係のない間柄でアレやれコレやれと言っても上手くいかないのは、教師であるイリアが1番よく知っている。
打算のある意図した行動ではあるが、念願の娘でもあるので普通に子供を愛し、慈しんだことは大前提である。
むにー
「うに?」
お茶会へ向かう馬車の中でママがボクの両ほっぺをムニムニと引っ張った。
「引き締めるのはいいけど、強ばるのはダメよ」
「うに」
「ふふふ、伸びるわね」
「ふぁふぁ?」
マロンの明らかに余計な強ばりを感じ取った夫人は緊張を解すようにマロンのほっぺを揉みほぐす
どうしたの? と聞くとママはボクの頭を撫でて言った
「大丈夫、あなたは私の教え子で可愛い子供よ、レナさんといっぱい練習したでしょう?」
「うん」
「基本は?」
「笑顔を絶やさず、背筋をピンと」
「よろしい、今日の夕飯はレナさんの領地のお肉を取り寄せてあるわよ」
「頑張る!」
行く先に肉があるならボクはいっぱい頑張るよ!
ボクが気合いを入れるとママはくすくすと満足そうに笑った。




