アランの悩み 2
「やだ、そういう事は先に言ってよね!」
「すまん」
バッシバッシとアランの肩を叩きながら笑うクリス
マロンの身の上を全て聞いて、彼女はペットだったというアランの発言が文字通りの意味だと理解した。
「それにしても神獣って、本当に居るのねぇ」
「信じるのか?」
「本当なのでしょう?」
「あ、ああ・・・」
「なら信じるわよ、他ならぬアランの言うことだもの、それにお爺様が昔似た様な話をしてくれたわ」
「なんだって?」
「昔、幼馴染みの可愛い子猫が居た、その子は帝国へ行ってしまったがね、って」
「なるほど・・・」
そのままの意味で受け取るのならば、子猫が貰われて帝国へと行ったという意味になるが
「子猫」に対して掛かる「幼馴染みの」は違和感がある
まるで人のような表現なのに、子猫とも言う
つまり獣から人へと変化した存在、王家の記録による神獣なのではないか?
メイベル侯爵家にそんな存在が今2人も居るので、他にも複数人は存在すると考えた方が自然である。
「一先ず、アランが女性を隣に置いていた理由もマロンちゃんの信頼の理由も分かったわ」
クリスから見れば、ポっと出の女の子がアランの隣に収まっているのだから疑問も当然。
アランの相談はオコジョマロンが女の子マロンになって、好意と信頼を向けてくる、素肌も見てしまってキスもされてと、これまでアラン×オコジョの友情(?)の意識から唐突に女の子マロンのアプローチを受けてどうしようというものであった。
「アラン・・・、ワタシ思うのだけどね」
「なんだ?」
「貴方はマロンちゃんが好き、マロンちゃんはアランが好き、何か問題がある?」
「俺はそういう目でマロンを見た事は、」
「あるわよね、柔らかく瑞々しい唇、白くシミのない美しい肌、均整のとれたスタイル、可愛らしい下着に包まれた・・・」
「やめろ・・・」
アランはグラスに残っていたワインを一気に呷る
その顔の赤みはアルコールの力だけではなかった。
「肉欲を禁忌的に扱うなんて土台無理な話よ?人間だもの、ワタシからすればマロンちゃんのように好意を伝えて行動する方が余程健康的なのだけど?」
「だから俺はそういった目では見てないと、」
「言うのなら、そもそも悩みなんてないじゃない、アラン、あなた自分で言っていることの矛盾に気が付いてる?気になるからワタシに相談してるのでしょう? だって気にならないなら数日後には家を出て行く子だもの、さよならでいいじゃない」
アランも分かってはいた
クリスに指摘されるまでもなく、マロンを女性として意識していることは
だが、これまで王子一筋で生きて来たアランは色恋沙汰にひどく疎い。
マロンの100%純粋な好意に困惑し、また自身の気持ちを表現する事が苦手だった。
「・・・心配なんだ」
クリスにガンガン痛い所を突かれて黙っていたアラン
手酌でワインを注ぎグラスで遊びながらポツポツと語り始めた。
「マロンは、見ての通り無垢で純粋だろ」
「ええ」
「頭は良いけど、多分騙されやすい」
「そうね」
「貴族には絶対向かない」
「それは、まあやってみないことには」
「・・・そうかもな」
「心配なら一緒に居たらいいじゃない、好きなら好きって言って、抱きしめたいなら抱きしめて、アラン、貴方はもう少し自分の為に人生を使っていいわよ、レオン様は貴方が居ないと何も出来ない子じゃないでしょ? もう少し周りに頼って甘えても誰も何も言わないわ」
「・・・」
唐突にしんみりした雰囲気になる個室
アランは自分を律して約10年レオンの従者として生きて来た、王子第一の生き方は滅私奉公でアラン自身の幸せは二の次。
休めと言われてもそうそう休まず、今回襲撃を受けて療養という名目で長期休暇になったのはレオンの心遣いであった。
色々な想いがアランの中でごちゃ混ぜになるが、ブレないものも確かに胸の内にある。
それはレオンに仕える事と、マロンへの・・・
「はー・・・、クリス」
「なに?」
ため息をつくとグラスをテーブルに置き、ぐしゃぐしゃと荒っぽく髪を搔くアラン。
「どうしたらいい、その、女性を口説くには・・・」
優秀だが色恋に不器用なアランはナンパなど出来ない
だから早速目の前に居るクリスに頼る事にした。
やだアランが可愛い・・・
クリスは口元を手で隠すと横を向いて肩を揺らす
くつくつと笑いを堪え、どうにか飲み込むと咳払いをひとつ。
「ごほん! 良いことアラン、まず基本はプレゼントよ・・・」
「プレゼント・・・」
「そう、出来れば長く残る物が良いわね、食べ物やお花も定番だけど」
「ふむ・・・」
こうして夜遅くまでクリスによる恋愛教室は開かれた
マロンが伯爵家へ旅立つ日にアランから贈られたチョーカーは、この時クリスに相談して急遽手配して貰った物である。
オコジョの時にエリザベスから贈られた革の首輪を大事に保管している事を知っていたアランは、度々マロンが首元を気にするように触れる癖も知っていた。
侯爵家に来た当初、マロンは首輪を着けようとしていた事もあり、チョーカーなら人間になった今着けてもアクセサリーとして認められる。
クリスもその話を聞いて太鼓判を押して最高級の品を用意したのだった。




