アラン悩む
時は少し遡る
伯爵夫妻との顔合わせに向けてクリスらワーナード商会が侯爵家に居るマロンを訪れた日の夜。
アランは悶々とするマロンへの気持ちをクリスに相談していた、場所はワーナードが出資する酒場で貴族御用達の個室飲み屋である。
適当に食事をつまみ、アルコールを口にしつつ顔を赤くしたアランは話し出した。
「俺は、マロンが好きなのかな・・・」
「知らないわよ・・・」
あまりに真っ直ぐな言い様にクリスは苦笑いしつつも考えた。
アランというこの男、世間では美丈夫でレオン王子の片腕として有能だと思われているのだが
こと恋愛や女性に関する事には途端に不器用になる。
紳士教育は身に付いているのだが
王子第一の行動として婚約者を立てなかったり、近寄る令嬢を軒並み遠ざけていた為に下心のない好意をぶつけてくるマロンに対してはどうして良いのか分からないのだ。
令嬢達は良い縁を結ぼうと良い男を探し、見付けたら捕まえる、それが貴族として当然であり
アランには侯爵家次男、王子の片腕、その王子は未来の公爵家入婿という付属物があるのでそれはもうモテる。
婿を取らねばならぬ令嬢には次男であるアランは優良物件で
家を出て、嫡男を捕まえなければならない令嬢でさえも
「将来は公爵家の片腕、最低でも領地の無い法衣貴族として爵位は賜る」
と目されて秋波を送っているのだ。
アラン本人は女性に構う余裕は無いと逃げて来たが
クリスからすれば、やっても無いのに婚約者も立てないなんて怠慢よ、となる。
クリスはアランの同級生、20歳で既に伯爵位を継ぎ
ワーナード商会も取り仕切りながら妻も迎えて子供も2人目が生まれたので為せば成るとも思う。
「そもそもマロンちゃんなんなの? ワタシだってそれなりに調べたのに結局出身が分からないなんて・・・、そんな謎の美少女がアランの隣に現れたと思ったら、アランは近くに居ることを許しているし、マロンちゃんにしたってアランに対する信頼はまるで長年積み重ねて来たみたいな目をしているしで訳分かんない」
「それは・・・」
クリスの言葉にアランの口が鈍る
「ほらそれよ、あの子に関して何か秘密があるのでしょうけど欠片も糸口は見出せないし、でも今日足を運んでくれたからには多少なりとも話してくれるのでしょう?」
アランは考え、そして話し出した
「これは口外無用だ」
「勿論よ、ワタシだって友達を売ったりしないし、可愛い女の子の事なら尚更よ」
「ああ、疑ってる訳じゃない信頼してるよ」
酒の入ったアランは顔を薄らと赤くしながら目尻を下げて笑いながら言った。
とんでもない色気を垂れ流しながら笑う美丈夫は、相手が令嬢だったら1発で恋に落としてしまうほどの色気を発していた。
「やだアラン、素敵抱いて」
「はは、断る・・・」
ふざけたやり取りをして、ひとしきり笑い合うアランとクリス。
手元に残ったワインを呷るとアランは顔を引きしめてマロンについて話し始めた。
「マロン、・・・彼女はペットだった」
「ああ?」
事実、マロンはオコジョ、オコジョはエリザベス公爵令嬢のペットなので嘘は言っていないが
美少女がペットなどと言われては、悲惨な身の上ではないのかとクリスも野太く低い声になって恐ろしい形相になってしまった。




