伯爵と伯爵夫人
場が落ちつき始めた所、伯爵夫人が気付いた
「あら、ジュードは居ないの?」
「ジュード、お兄さん?」
「ええ」
事前に聞いていた話だとホランドさんと先生の息子、お兄さんのジュードが居て、エントランスで屋敷のみんなと一緒に会う予定だった。
「あ、そのう、ジュード様は急用があるとお出掛けに・・・」
「急用? それは新しい家族を迎えるより大切な用事なのか?」
「わたくし共も本日はマローネ様がいらっしゃるのでせめて午後から、とお止めしたのですが旦那様と奥様がお出掛けになられてすぐに・・・」
「ジュードはマローネが来ると知っていて出掛けたのね、忘れていたのでは無く」
「はい、お声掛けはしましたので」
クラインさんの答えにホランドさんはムッとして、先生は目が細める。
ボクの知ってる先生だった、何となく背筋が伸びる
養女の迎えに朗らかな雰囲気だったものが少し曇る
「イリア、先にマローネを案内しようじゃないか、我が家をね」
「あなた・・・、そうね、じゃあ」
「あ、なら私がご案内を!」「いえ、私が!」「ちょズルい私に任せて!」
ホランドさんが先生の背中にそっと手を添えると先生はフウと息を吐いた。
侍女さん達が凄い勢いで殺到した、なんか侯爵家でドレス着せられた時と似た光景だ・・・
「マローネの案内は私がやります、皆はこちらのレナさんをお願い、侯爵家から着いてきて貰ったからレナさんともう1人マローネについてもらうわ」
「キュレオス男爵の娘レナです、未熟者ですがどうぞ宜しくお願い致します」
「おー、レナがそれっぽい」
それっぽいってなんだ
何事も第一印象が大事なんだから余計な事言うなと内心思ったが、確かにマロンの前で貴族っぽく振舞った記憶がないレナは作り笑いでなんとか封じ込めた。
一通り使用人のみんなを紹介された
執事のクラインさん、侍女長のニーナさん
侍女、庭師、御者、馬屋番、たくさんの人数で大変だけど頑張って憶える。
ゆっくり憶えたら良いわと先生は言ってくれたけど
エリーに教えていた時は必ずひと目で皆憶えるようにと指導していたからね、うん。
その中でも1番に記憶したのは料理長のフォアさんだ
ぽっこりお腹のフォアさんはこっそり教えてくれた
「お嬢様はお肉が好きだと聞いておりますので腕を奮わせていただきます、今日はオージー領のオーストビーフステーキですよ」
「!、フォアさん大好き」
ニカっと歯を見せると親指を立てるフォアさん
オーストビーフは公爵家の図書館にあった«王国のお肉様»っていうボクのバイブルに書いてあった肉のひとつだ。
ボクは食べた事ないけど«お肉様»のいうことは間違いない、絶対美味しいジュルリ・・・
「ほうフォア、肉で娘を釣るとはどういうつもりかな?」
「ハッハッハ!旦那様、古今東西胃袋を掴んだものが何でも勝ち取るのですよ、男女性別関わらずね」
「もうあなたたち何をふざけてるのですか・・・」
ホランドさんはキラリと目を光らせてフォアさんを見た
ボク、別に釣られてないよ?
お肉に罪は無いからね、くれるなら絶対食べるけど釣られてないよ?
ごく僅かにだが肉の話で簡単に顔を緩ませたマロンを見て、イリアは少し不安になった。
勉学はエリザベス公爵令嬢の時のものをほぼ憶えているらしく頭はいいが、その割には子供らしい子供なので貴族の心構えと一般常識は都度教えないと危ないかも知れない・・・




