別れと出会い
今日はボクが侯爵家を出て行く日だ
公爵家を出る時は追われる事になったけど、今回は違う。
ボクは頑張って淑女になる!
そうすればエリーの近くに行ける、先生は公爵家の侍女へ至る道を教えてくれた。
他にも道はある、これから一緒に考えて模索していきましょう、とも言ってくれた先生。
これからは伯爵令嬢だ、たくさんの人に恩を返さないといけない、アランにも侯爵夫人にもタチアナにもクロスケにも、そこに先生とホランドさんも加わる、それに・・・
「ほら、荷物は全部運び出したんだからアンタも早く行きなさいよ」
「ん、ありがとうレナ」
レナがメイベル侯爵家から一緒にリュミエール伯爵家へ来てくれる事になった、ボクの侍女になるらしい。
ひとりじゃ寂しいでしょう? と先生はボクを撫でながら言った。
「アンタの為に伯爵家に行くんじゃないんだからね!」
ってレナは言っていたけど、ボクにとっては一緒に来てくれるだけ嬉しかった。
クロスケが「ツンデレだ、やべえ萌える」とか言ってたけど、どういう意味だろ?
侯爵家のみんなにお別れの挨拶を済ませ
エントランスから出る間際になってアランに呼び止められた。
「マロン」
「ん?」
「餞別にこれを・・・」
手渡ししてきたのは真紅の地にワンポイントで白い薔薇の刺繍が刺されたチョーカーだった。
アランはボクの耳元に顔を寄せる
「エリザベス様に貰った首輪が使えないだろう、これならアクセサリーとして着けても問題ないから良ければ・・・」
侯爵家に来た当初、ボクはどうしても首輪をしたかった
思い出のものは首輪とクッションだけ、どちらもエリーから貰ったボクの宝物だから。
でもオコジョ用の首輪は人間が着けているとダメで
特に侍女に「これからはその様なものを着けなくても良いのですよ」と泣かれたから着けられなくなった。
10年着けてきた首輪の感触がないのは落ち着かない、最近は慣れたけど、それでも何か物足りないような落ち着きのなさは感じていた。
「ありがとう、アラン」
アランは憶えていてくれたんだ
ボクは嬉しくて目の前にあったアランの首に抱き着いてスリスリした
なんかいい匂いがするんだよね、日干ししたシーツからする暖かい匂いのような・・・
「お、おいマロン?」
「アラン、着けて」
早速チョーカーを着けて貰う
キュッと首に掛かった軽いしめつけに満足すると、離れ際にアランにお礼をした。
ちゅっ・・・
「んなあ!?」
「「「キャアアーーー!」」」
「イリス!マローネはアランくんと!?」
ん? なんかみんなの反応が凄い。
ただのお礼だよ、普通にするよね?
「マロン、また・・・、いや、それより軽々しく男にキスはしてはいけないぞ・・・」
「うん、だから今日は口じゃなくてほっぺにしたでしょ?」
「・・・」
今日は、口じゃなくて? ヒソヒソ
マロンを見送りに来たのは屋敷中の人間で、アランとマロンを好奇の目でコソコソ話をし始めた。
先生と顔合わせをした日から何回かお茶をした時に教えられた。
人前で口へのキスはダメで、おでことほっぺはいいらしい
口はいっぱい好きな人に、おでこやほっぺは好きとありがとうを表すキスになる。
アランはいっぱい好きだけど、それを言うと
「閨教育やそっち方面は公爵夫人・・・、改めて確認しないといけないわ」
って言って考え込んでいた、閨ってなに?
「素直とか、甘えられるって才能だよな」
「そうね・・・」
マロンはクロスケやタチアナに生温い視線を送られた事を知らないまま伯爵家へと旅立っていった。
残されたアランはその後散々いじり倒されたのは言うまでもない・・・




