エリザベス 2
おかしい・・・
とても頭のいいマロンが寝ぼけているからって逃げたり暴れたりなんて絶対にしない。
せいぜい一緒に寝ていた時に
「キゥ、ジュルッ」
っていって、私の首に甘噛みの痕を付けるくらいしかないのに・・・
「エマリー、マロンはどうしてたの?」
「ひえっ、いいいえ、ゲンキデシタヨ!」
私が聞くとあからさまに挙動不審になるエマリー
「元気? 寝ているんじゃないの?」
「そそ、そうです、ネテマス」
「暴れて逃げ回ってないの?」
「ハイ、アバレテ、ニゲマワッテマス」
「寝てないの? 暴れてるの? どっちなの?」
「ぁゎゎ・・・」
「エマリー?」
「も、申し訳ございません!旦那様に口止めされてますぅ!」
「お父様に? へえ、そう、まさかマロンは、し、死んでたりしないよね・・・」
「それは、多分大丈夫かと、はい、多分・・・」
多分ってなんだ、エマリーを見るとビクリとしていた
いけない、私目つき悪いから気を付けないとちょっとした事でも睨んだって言われる、エマリーは慣れているだろうけどマロンに関しては私も気が立っていたからいつもより厳しく見えたかも知れない・・・
「エマリー、別に怒っていないわ、お父様には私から聞くからあなたは何も心配しなくていいわ」
「は、はい」
エマリーは私専属と言っても、雇い主は公爵のお父様
そのお父様がエマリーに命令したら言うことを聞くしかない。
何かを隠しているみたいだけど、エマリーが答えられないならお父様を締め上げるしかない。
「エリザベス元気にしてるかな」
「ふふふ、公爵様私に言うことがあるのではなくて?」
「・・・」
エリザベスが公爵と読んだ事で顔を青ざめさせる公爵
怒っているその姿は公爵夫人とそっくりで、何かあった時には必ず公爵様と他人行儀に言うのだ。
「どうしたんだエリザベ、」
「マロン」
「・・・」
「連れて来なさい、今、すぐに」
公爵はガクガクと震えだし、すぐに観念した
愛娘に公爵様などと他人行儀に言われることなど耐えられなかった。
「そう・・・」
事のあらましを聞いたエリザベスは小さく嘆息した
マロンがどこかへ行ってしまった、しかも襲撃された夜、もうひと月も前に。
探しに行きたい、けれど自分が外を歩いた所で半日も探せば疲れてしまう
そして警備体制を敷くのに自分の周りに人が配されるのも分かりきっている、自分の自己満足の為に人手を使ってしまうよりはその分捜索に回した方が効率的であると。
それでも、それでも自分が声をあげたらマロンならひょっこり駆け寄って来るのではないかという期待。
怪我はしていないのか、ご飯は食べられているのか
最後に見たのは弱々しい姿であっただけに不安が胸を締め付ける・・・
そして、父がその事を黙っていた事に腹立たしいという感情と、結局何も出来ないのだから報せてやきもきさせるよりは黙っておこう、という優しさも理解出来た。
だから
「はあ、お父様・・・」
「はい」
エリザベスの大仰なため息にビクリと肩を揺らす公爵
「探しているのですね?」
「はい・・・」
「侵入者の人相書き、見せて下さい」
「いや、エリザベスの目を穢すわけには、」
「いいから、見せなさい!」
「はい・・・」
探しているのならこの場で責めてもどうにもならない
マロンが消えた事に関係あるのか分からないけど、私が繕ったマロンのお気に入りのクッションを盗っていったという賊に興味が湧いた。
公爵は内ポケットから人相書きを取り出すと、広げてエリザベスに渡した。
それを受け取ったエリザベスは人相書きを見て目を見張った
「この人っ」
「エリザベス知っているのか!」
「お父様、この方の色は確かなのですか?」
「色?」
「髪と瞳の色です」
「ああ間違いないよ、深夜だけど月明かりはあったし、私とアンドレアス、エイブラハムとライレルの4人共に一致した考えだ」
「・・・」
「エリザベス?」
公爵の問い掛けにエリザベスは答えなかった
人相書きを見て驚いたのだ
マロンとの付き合いは10年に及ぶ
文字盤を使って会話するオコジョ
編み棒を使って編み物をするオコジョ
空気を読んで大人しくするオコジョ
人間らしい行動をするかわいいかわいいマロンが、もし人であったのならと想像した事は1度や2度ではなかった。
人相書きの顔はそんなエリザベスの想像、擬人化マロンにとても近かったのである。
オコジョが人になるなど有り得ない、しかし奇妙な縁を感じたエリザベスは「丁重に保護をして会わせること」を正座させた公爵に言い含めた。




