24話 ダンス・ウィズ・ウルブズ
まず最初に破られたのは階段の横の窓だった。
窓からグレイハウンドが身を乗り出して中に入り込もうとするが、首だけが屋内に転がった。
「会長に対する狼藉はこのエリザが許さぬ!」
剣を振りながら血振りをくれる。
「さっすがエリっち!」
だが、別の窓もことごとく割られていく。ぐるると唸り声を上げながら来訪を告げる。
「わぁあああっ!」
ヴィクトリアの前にある窓も破られ、魔獣がばくりと口を開けるのが見え――――
だが、こめかみに矢が射たれるとそのまま痙攣しながらがくりと倒れた。
「大丈夫ですか!?」
リリアがボウガンを手に駆け寄る。
「う、うん! だいじょぶ! ビックリしただけ!」
「よかった……。っ! また来ます!」
ボウガンに矢を装填し、ふたたびグレイハウンドに狙いを。
「クソっ! なんで当たらねぇんだ!? ちゃんと真っすぐ狙ってるのに!」
暖炉の横では真壁がリボルバーを構えているが、上手く当たらないようだ。弾丸はいずれも見当違いのところへ向かっていく。
「吹雪のせいだよっ! 吹雪で弾道がそれちゃうんだ!」
「マジかよ! どうすりゃいいんだ!?」
そこへ窓枠の下に赤色の札を貼り付けたテンが駆け寄る。
「真壁、ワタシの言う通りに狙うネ!」
「お、おう!」
テンが真壁の背におぶさり、顔を近づけてきた。困惑する真壁をよそにテンは向かってくるグレイハウンドの距離、風速を瞬時に計算していく。
そしてぴっと外を指さす。
「右斜め少し上を狙っテ!」
「へ? なんにもないぞ!?」
「いいからワタシの言うとおりニ!」
「わかった!」
半信半疑でテンが指さした方向へトリガーを引く。破裂音と同時に飛び出た弾丸は吹雪によって曲がったかと思うと、グレイハウンドの眉間に命中した。
真壁の初戦果である。
「……や、やった! すげぇよ! テン!」
「油断しないデ! まだまだ来るヨ! 次は左横だヨ!」
テンの指示の下、たちまちグレイハウンドは斃れていく。
だが、そのときテンがいた場所の窓からまさにグレイハウンドが入ってくるところであった。
「やべぇ! 入ってくるぞ!」
「無問題! 心配いらないネ!」
グレイハウンドが窓枠に貼られた札に足をかけた瞬間、爆音とともに後方に吹っ飛んだ。
「焔爆の符だヨ!」
「すげー! まるで地雷だ!」
「よそ見しないで撃ツ!」
慌ててトリガーを引くが、カチッと音がするだけだ。
「弾切れ!?」
すぐにシリンダーの裏の蓋を開けてそこから薬莢を排出するが、構造上シリンダーを回しながら一発ずつ取り出さないといけない。
もたもたしてる間にもグレイハウンドが距離を詰めてくる。
「真壁早くするネ!」
ボウガンを撃ちながら急かす。
「わかってる! リロードしないと!」
ガンベルトから弾丸を取り出し、シリンダーに込めようとするとグレイハウンドが口を開けた。
「やべぇッ!」
だが、喰らいつこうとしたグレイハウンドの顔が炎に包まれる。
顔を焼かれた魔獣はのたうち回り、やがて動かなくなった。
「気をつけよ! 彼奴らは遠慮なく襲いかかってくるぞ!」
ヴェルフェが杖を構えながら。
「悪い、助かった!」
「……静かになったヨ」
テンの言うとおり、さっきまで聞こえていた唸り声が嘘のようにぴたりと止んでいた。
「ぜ、全滅したのか……?」
「じゃ、ボクたちの勝利だねっ」
喜ぶ真壁とヴィクトリアにエリザがしっと指を口に当てる。
「まだ気配を感じます……おそらく今のは小手調べと言ったところでしょう」
女騎士の言葉に一同がざわつく。
「マジかよ……また来るってのか?」
「真壁、今のうちに弾を込めるといいヨ」
真壁が弾丸を込めるなか、ヴィクトリアがふたたび入口横の窓へ。ゴーグルを下ろし、割られた窓からそっと様子を伺う。
「ホントだ……エリっちの言うとおり、まだまだいるみたいだよ。まって、魔鉱石の反応が」
レンズ部分を回してさらに測定。
「えっと……あれはライカンかな? 魔力量が上がってるってことはライカンが魔鉱石を持ってるみたい」
さらにレンズを回して望遠モードに。するとライカンの胸の部分に反応が。
「大変だよっ! ライカンの胸に魔鉱石が埋め込まれているみたい!」
「なんじゃと!?」
「ただでさえライカンは手強いというのに……魔鉱石の力を使われてはひとたまりもありませんね……」
同じく様子を見ていたエリザがぎゅっと歯噛みを。
「あれ? なんか……指示飛ばしてるみたい」
ゴーグルの視界では確かにライカンが手を振りながらグレイハウンドに指示を飛ばしているようだ。
すると、グレイハウンドの群れが左右に分かれて向かってくる。
いや、左右だけでない。正面からもだ。
「やばいっ! こっちに向かってくるよっ!」
ゴーグルを外しながら言う。
「総力戦というわけですか……」
エリザがリリアから借り受けたマフラーを締めなおす。
「ジョーダンじゃねぇぞ……第二ラウンドなんて……」
シリンダーに弾を込め終えた真壁がぼやきながら。
「来るぞ! みな気を引き締めるのじゃ!」
かくして第二ラウンドの火蓋が切って落とされた――




