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21話 パンデモニウム生徒会、北へ!


 長く馬車を走らせると、木々の生い茂る景色から一転して雪景色に変わった。吹雪のなか、生徒会一行を乗せた馬車はゆっくりと慎重に歩く。

 

「テン殿、この道をまっすぐ行けば良いのでしょうか?」


 御者台(ぎょしゃだい)にて手綱を取るエリザが白い息を吐きながら隣に座るテンに尋ねる。防寒服に身を包みながらコンパスを手にしたテンが地図に目を落とす。


「ウン。しばらく道なりだヨ。ノワール地方まであと少しネ」 

「承知しました」


 そこへ荷台からヴェルフェが顔をのぞかせる。

 

「エリザ。そろそろ交代の時間じゃ。中に入れ」

御意(ぎょい)


 一度馬を停め、手綱をヴェルフェに手渡すと入れ替わりに幌の中へと入った。

 中には防寒服に着替えた生徒会一行が座していた。

 「失礼する」と断ってからエリザも腰かける。


「なぁノワール地方まであとどのくらいかかるんだ?」

「あと少しだとテン殿がおっしゃっていました」

 

 真壁の問いにエリザが答える。


「お疲れ様でした。お茶です」

「む、かたじけない」


 リリアから木製のコップを受け取るが、温かいことに気づく。


「温かい……! しかし、火の(たぐい)は見当たらないようですが?」

「それはこれのおかげだよっ」


 ヴィクトリアがポットの下に置かれた円形状のものを指さす。


「魔鉱石の力で熱を発する機械だよ☆ これなら火を使わないから火事にならなくてすむからね」


 ふふんと自慢げに腕を組む。


「今のところ、グレイハウンドが出てくる気配はないみたいですね……」


 リリアが後部から外を見ながら言う。馬車の(わだち)しか見えないが、それも降りしきる雪によってやがて見えなくなった。


「確認だが、そのグレイハウンドってのは一匹狼で群れでは行動しないんだよな?」

「うむ。じゃから、わしは魔鉱石の影響によるものではないかとにらんでおるのじゃ」


 幌越しにヴェルフェが答える。


「あくまで憶測ってわけか……魔鉱石が見つからなかったら骨折り損だな」

「大丈夫ですよ。きっと見つかります! それに私たちはいつでも困難を乗り越えてきたんですから!」


 リリアがむんっとガッツポーズを。


「……だな!」

「そうだよっ。ボクもいろいろ発明してきたんだし! それに今回はエリっちもいるんだよ」

「エリっち? それはもしかして私のことでしょうか?」


 エリザの問いにヴィクトリアがうん!と頷く。


「そう言えば、エリっちさんは寒くないのでしょうか? 私たちは防寒服がありますが……」


 リリアが不安そうに見つめる。

 確かにエリザだけは旅装束の上に甲冑とケープを羽織っただけだ。極寒の地ではいささか心許(こころもと)ない。


「お気遣いは無用です。騎士たるもの、たとえ火の中水の中であろうと……へっぷしッ」


 盛大なくしゃみと同時に首が転がり落ちる。首無し女騎士はわたわたと拾おうとするが、真壁が元の場所に戻してくれた。


「気をつけろよ。ただでさえ取れやすいんだから」

「む、す、すまない……」


 鼻を押さえていると、マフラーが手渡された。


「私のものですが、よかったらどうぞ。首に巻いておけば少しはましになるかと」

「リリア殿……かたじけない」


 マフラーを首に巻くと、ほっこりとした温かさに包まれていく。


「エリっち、か……」


 マフラーのなかでそうぽつりと呟く女騎士の頬が少し赤く染まる。

 その時、馬車ががくんと停まった。何事かと考える前にヴェルフェが顔を出してきた。


「みな、着いたぞ。ノワール地方じゃ!」


 真壁たちが幌から外を覗くと、確かに村が見える。もっとも住民の気配はないが。


「あそこに宿屋みたいなのが見えるヨ」


 テンが指さす先には宿屋を示す看板が下がっている。窓からランプの明かりがともっているのが見えるので誰かがいるのだろう。


「よし、今夜はあそこに泊まろう。そして情報収集じゃ」


 そう言うとふたたび手綱を振るい、馬車を進める。


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