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20話 旅立ちのとき


「あら? なにか音が……」


 自室で防寒服の仕上げに取りかかっていたリリアが音のしたほうを向く。

 むろん真壁の放った銃声だが、そのことを知る由もないリリアは首を傾げる。


「いけないいけない。仕上げをしないと」


 最後の一着にワッペンを縫い付け、出来栄えを確認する。これも良い仕上がりになったことを確認するとうんと頷く。

 これで全員分の防寒服は完成だ。

 

「と、真壁さんから頼まれたものもチェックしないと……」

 

 真壁の描いた絵を基にして作製したベルトを取り出し、これも出来栄えをチェック。

 バックルの横に弾丸を入れる筒状のポケットにホルスターが付いたガンベルトだ。


「うん! これも良いですね!」


 真壁専用の防寒服の上にそっとガンベルトを置く。


 ◇◆◇


 同時刻。


「ん? 爆竹の音カ?」


 テンが翌日の旅支度をしていたところに発砲音。


「ま、いいカ。それより明日の仕度をしないといけないネ」


 ベッド上のリュックに身支度を入れ、最後にテンが書いた札を納めた箱を入れる。


「これでヨシ」


 仕度を終え、最後にリュックの蓋のボタンを留める。


 ◇◆◇


 二時間後。


「あかんあかん。すっかり遅れたわ……」

 

 練習場に向かうシルヴィーがぽつりと零す。今頃練習場ではヴェルフェが魔法の練習をしているところだろう。

 授業の準備で遅くなってしまったので早足で向かう。


「顧問が約束の時間に遅れるなんてシャレにならんで」


 程なくして練習場が見えてきた。的のカカシが並んでいるのが見える。

 ヴェルフェが練習しているであろう場所へ向かうが、途中一体のカカシの頭部が吹き飛んでいるのが見えた。むろん真壁の手によるものた。


「これは……魔法によるものやない。何か実体のあるもので吹き飛んだ痕や」


 ヴェルフェが放ったものかと思ったが、彼女の姿は見当たらない。

 その時、背後が一瞬明るくなった。ヴェルフェが魔法を放ったのだろうと早足で駆ける。するとはたしていた。

 だが、当の本人は激しく息をしながら地面に手をついていた。魔力の枯渇によるものである。


「大丈夫か!? 無茶しすぎや!」


 ふと、標的のカカシを見る。ヴェルフェが放った魔法はカカシの胸を貫いていた。穴の周りにはぶすぶすと煙が。


「……やっと、やっと届きましたぞ……」

「……そっか。よぅ頑張ったなぁ」


 教え子をよっと背負う。


「これならもう教えることはあらへんわ。ほな学園に戻るで」


 会長を背負った顧問は満足げに帰路につく。


 ◇◆◇


「はぁー……予想以上の出来だったなぁ。やっぱボクって天才だね☆」


 射撃テストを終え、真壁と別れて自室に戻ったヴィクトリアは腕を組みながらうんうんと頷く。


「と、感心してる場合じゃないや! ボウガンの続きやらないと!」


 作業室へ向かい、机に座る。用意したボウガンの素材を手にして組み立てていく。

 構造が単純なので組み立ては早く終わった。


「これでよしと。あとは……」


 ふと、ちらりと傍らに置かれた木箱を見る。そこにはリボルバーの製作に使用した部品の余りが。

 

「…………」


 指を顎にあてがい、しばらく考える。やがて名案が浮かんだのか、すぐさま木箱の中身をあけて組み立てに取りかかる。


 ◇◆◇


 翌日――。すなわち、ノワール地方への出発日。

 学園の正面口にはすでに一台の馬車が留まっており、二頭の馬――骨だけの馬、いわゆるスケルトンホースがぶるるっといななきを上げる。

 馬車には(ほろ)の付いた荷台が取り付けられており、真壁が荷物を載せていく。


「――食料、水、防寒服はひととおり揃ってますね」


 リリアがクリップボードに挟んだリストをチェックしながら頷く。


「真壁、これもお願いするネ」

「おう」


 テンがリュックを手渡す。


「おお、出発の準備は整っているようじゃな」


 リュックを背負ったヴェルフェがやってくる。傍らにはシルヴィーもいた。

 ヴェルフェのリュックも荷台に載せてやる。


「失礼する」


 (りん)とした声が響く。見ると風紀委員長のエリザが立っていた。旅装束の上に甲冑を着込んでいる。

 そして背後には甲冑に身を包んだ風紀委員が一列に並ぶ。


「会長。私も同行させていただきたいのですが、構いませぬか?」

「う、うむ。腕の立つ者がいると助かるしな。よろしく頼む」

「ありがとうございます。この身に代えても会長たちを御守りいたします!」


 くるりと風紀委員のほうへ。


「お前たち、留守の間は頼んだぞ」

「承知しました! お気をつけて!」


 同時に発せられた返事にエリザがうむと頷く。

 そしてそのまま荷台に乗り込もうとすると、真壁に気づく。


「貴殿も来られるのですね。くれぐれも警護の邪魔はしないようお願いします。もしそのようなことがあれば……」


 腰に差した剣に手をかける。カチャっと鳴る音に真壁がごくりと唾を飲む。


「む、ヴィクトリアがまだ来ておらぬようだが……?」


 きょろきょろと辺りを見回すと、正面口からおーいと聞き慣れた声が。


「ごめんごめん。発明に夢中で旅支度をすっかり忘れちゃってて!」

 

 ぶんぶんと手を振りながらやってくる。背中には大きめのリュックが。


「遅いぞ。仮にも副会長であるのだから自覚を持ってじゃな」

「ごめんって! でも言われたとおり役に立つものを造ってきたんだよっ」


 そう言ってリュックから取り出したのはボウガンだ。


「三丁しか造れなかったけど、モノはいいよ☆」


 ボウガンも荷台に載せる。


「ヴィックにはピストル造ってもらったからな。頼りにしてるぜ」

「うん! 品質は保証付きだよっ! それとね」


 なにやらごそごそとポケットを探り、目当てのものを取り出す。


「じゃーん! ピストルの部品の余りで造った小型ピストルだよっ。ボク専用の武器さ☆」


 手のひらサイズのピストルだ。リボルバーでもオートマチックでもない単発式の銃だ。


「といっても、部品が少ないから二発しか撃てないけどね」

「いやいや充分すごいぜ!」

「そうそう! 忘れるところでした!」


 リリアがぱんっと手を叩きながら。


「真壁さんに頼まれたものも出来ましたよ」


 取り出したのは革で仕立てられたガンベルトだ。


「おお! カッコいいな!」


 リリアから受け取り、すぐさま腰に回してバックルを締め、ホルスターに銃を納める。

 まるであつらえたかのようにピッタリだ。


「すごくかっこいいですよ! 真壁さん!」

 

 リリアがパチパチと拍手を。それに気をよくした真壁がふふんと自慢げに。


「これで俺もガンマンだ!」


 意気揚々とする真壁にヴィクトリアはむーっと納得いかない顔をしていた。


「ボクだってそれくらい作れるのに……」

「ん? 何か言ったか?」

「知らない!」


 ぷんすかとそのまま荷台に乗り込む。


「なんだあいつ……ま、いいか」

 

 ふたたびガンベルトに目を落としていると、シルヴィーが声をかけてきた。


「くれぐれもケガには気をつけるんやで」

「え、あ、はい!」


 ぷかりと煙を吐く。そして「給料の査定に響くしな……」とぽつりと零す。


「そっちが本音か!」

「っと、忘れるとこやった。これ受け取り」


 ぽいっと小さな革袋が放られる。中を見ると金貨が数枚入っていた。


「これって……」

「旅費の足しにしとき。それと」


 ずいっとシルヴィーが顔を近づけてきたので真壁はどぎまぎする。


「美味そうな地酒があったらお土産に()うてきてほしいんや♡」

「はぁ……ていうか、俺未成年ですけど」


 ヴェルフェが荷台から顔を出す。


「何をしてるんじゃ? 置いていくぞ!」

「悪い悪い!」


 真壁が荷台に乗り込むと馬車はシルヴィーと風紀委員たちに見送られながら出発した。

 手綱(たづな)を握るテンにより、馬車は学園の外との境界まできた。

 荷台からヴェルフェが身を乗り出し、学長から受け取った外出許可証を取り出す。

 封を解いて広げると、目の前の何も無い空間がねじ曲げられたかと思うとぽっかりと穴が開いた。


「なんだこれ! スゲーな!」

「結界じゃ。迷い込んだ者が学園の敷地内に入らないようにな」


 荷台から顔を出した真壁にそう言うと、テンに先を進むよう促す。

 テンが手綱を振ると二頭の馬が進み、いよいよ学園の外へと出る。

 後ろを振り返ると結界は元の状態へと戻っていた。


「よし! 目指すは極寒の地、ノワール地方じゃ!」


 ヴェルフェがばっと腕を高く上げ、生徒会一行が「おーっ!」と続く。


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