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19話 それぞれの決意 真壁の場合 後編


 エリザとの稽古の翌日。

 真壁はヴィクトリアの部屋の扉の前にいた。コンコンとノックをするが、返答はない。


「……? っかしいな。この時間なら部屋にいると思ったのに……」


 ノブに手をかけて回すと難なく開いた。


「あれ? 部屋にいるのか?」


 ゆっくりと扉を開け、「入るぞ」と声をかけながら中に入る。

 

「おーい、ヴィック」


 さらに続けようとしたところへ、ひゅんっと何かが目の前をかすめる。

 見ると一本の矢が壁にびぃんと震わせながら刺さっていた。


「え? あ、イタル! だいじょぶ?」

「『だいじょぶ?』じゃねーだろ! 危うく死ぬとこだったわ!」

「ごめんごめん。新しく作った武器のテストをしたくてさ」


 奥のほうからととと、とヴィクトリアがやってくる。手には一丁のボウガンが。


「それって……ボウガンか?」

「うん! まだ試作の段階だけどねっ」

「へぇーっ。よく出来てるな」


 手に取ってみると思いのほか軽く作られており、持ち運びしやすそうだ。


「今のところ、それ一丁だけだけどね。それでなにか用?」

「え? あ、そうだった。実はヴィックに作ってほしいものがあるんだ」

「作ってほしいもの? いいよ! ボクにできることなら!」


 どんと胸を叩く。


「助かる! 今から紙に描くから」

  

 手頃な紙を机に広げ、ペンを手に取るとすぐさま要望のものを描いていく。

 カンタンな絵なのですぐに出来上がった


「これって……もしかしてピストル?」


 紙にはいわゆるオートマチックと呼ばれる一般的なピストルの絵が。


「あれ、知ってたのか? というか、この世界にもあるのか? ピストルが」

「うん。この絵とはすこし違うけどね」


 イタルからペンを受け取り、さらさらと走らせる。出来上がったのは丸みを帯びたグリップに銃口がラッパのようになっているものだ。

 いかにも海賊が持っていそうなピストルである。


「先込め銃といって、銃口から直接弾を込めるんだよ。海賊がよく持ってるね」


 身振り手振りを交えながら説明を。


「へぇー……この世界にも海賊がいるのか。あれ? でもそれだと一発しか撃てないんじゃないか?」

「そうなんだよっ。しかも射程距離が短いんだ」

「でも俺が描いたやつなら連射できるぜ」

 

 ふたたび真壁の描いた絵を見るが、「んー……」と首をひねるだけだ。


「そもそもピストル造ったことないし、こんなの見たことないしなぁ……せめて実物があれば造れるかもしれないけど」

「まじか……じゃ、これはどうだ?」


 さらさらとペンを走らせ、出来上がったのはいわゆるリボルバーと呼ばれるピストルだ。

 

「これって、もしかしてここに弾を込めるの?」

 

 ヴィクトリアが指さしたのはピストルの中心にあたるところだ。シリンダーと呼ばれる部分である。


「ああ。俺の世界じゃ6発入るようになってるんだ」

「へぇーっ! これならさっきのピストルと違って構造は単純そうだし、ボクにも造れるかも!」

「ホントか! まかせたぞ!」

「うん! ボクにまかせて!」


 どんと胸を叩く。


「んじゃ頼んだぜ!」


 手を振りながら別れを告げると、実験室にはヴィクトリアひとりのみとなった。


「イタルのいた世界って面白いなぁ。まだまだボクが知らないことがいっぱいあるし……」


 真壁が描いた絵を見ながらつぶやく。


「この絵と、ボクの発明力があればすぐに元の世界に」


 そこまで言ってはたと気づく。


「そっか。魔鉱石が溜まったらイタルは元の世界に帰っちゃうもんね……」


 しゅんとなるが、すぐに首を振る。


「ううん! まだ先のことを考えてもしょーがないよねっ!」


 紙を手にして製図台のほうへ向かう。白紙の設計図を台に広げ、定規のついたアームを動かす。


「絶対に良いものをつくってみせるよ!」


 自分を奮い立たせるかのように「おーっ」と手を伸ばし、ペンを手に取った。



 次に真壁が向かったのはリリアの部屋だ。ドアをノックすると、「はい、どうぞ」と許可が。


「あら、真壁さん」


 ドアを開けるとリリアは机に座りながら作業をしていた。むろん防寒服の製作である。


「おお、これが防寒服か」


 出来上がったひとつを手に取る。厚手の生地の裏にはもこもことした毛が裏打ちされていた。

 左袖には生徒会一行を表すワッペンもある。


「はいっ。上下だけでなく帽子や手袋も作ってるんですよ」


 見ると机には生徒会一行の身体に合わせた大小様々な帽子と手袋が。

 

「リリアってすごいな! ツナギだけじゃなくこんなのまで作れるなんて」

「うふふ。ありがとうございます」

「ついでと言っちゃなんだけど、作ってほしいものがあるんだ」

「作ってほしいものてすか?」


 リリアが首を(かし)げながら。


「ちょっとまって。紙に描くから」


 これまた手頃な紙にペンを走らせ、出来上がったものを見せる。


「これって作れるか?」

「これは……ベルトでしょうか? でもこの並んでいるものはなんでしょう?」


 指さしたのはベルトのバックルの横に並んでいる小さな筒状のものだ。


「ピストルの弾を入れるんだ。ガンベルトって言うんだけど」

「ああ! ということは、この横についているのはピストルを入れる袋なのですね!」


 ぱんっと手を合わせながら。


「ご名答! ホルスターって言うんだけど、作れそうか? ピストルのほうはヴィックが造ってくれてるんだ」

「まかせてください!」

 

 ガッツポーズを取りながらむんっと気合いを入れるように。


「ありがとう! 助かる!」


 手を振って別れを告げ、リリアはふたたび真壁の描いた絵に目を落とす。


「これだと素材は丈夫な革が良さそうですね……」


 ちょうど手頃な素材は揃っている。


「さて、もうひと仕事ですね!」


 裁ちばさみを手にすぐさまホルスターの作製に取りかかった。



 それから三日後――。


 真壁はヴィクトリアの実験室にいた。彼女から試作品が出来たので見に来てほしいと言われたのだ。


「できたのか!?」

「う、うん。とりあえずはね」


 待ち切れない真壁の前に小さな木箱が置かれる。


「ピストル自体はじめて造ったからね。これでいいかどうかはわからないけど……」


 木箱から中身を取り出す。真壁が描いた絵と多少の差異こそあれど、それは完全にリボルバーとしての(てい)()していた。


「すげぇ! イメージどおりじゃねぇか!」

「ふふんっ! ボクの手にかかれば造作もないことだよ☆」


 手に取ってみるとずしりとした重さが。モデルガンとは違う、()()の重さだ。


「構造が単純だから造るのにはそんな苦労しなかったけど、弾丸造るほうが大変だったけどね」


 次に取り出したのは弾丸だ。先端が丸みを帯びた、いわゆる45口径弾と呼ばれるものである。

 

「ここから弾を込めるんだよ」


 真壁から銃を受け取り、シリンダーの後ろにある(ふた)を開け、そこから弾丸を入れていく。

 シリンダーを回しながら六発すべて装填すると最後に蓋をパチンと閉める。


「はい。これでいつでも撃てるよ☆」

「さんきゅ! 試し撃ちしたいけど、どっかいいところないか?」

「それならピッタリの場所があるよっ」


 ヴィクトリアに連れられてやってきたのは練習場だ。もちろんヴェルフェが魔法の練習で使っている場所である。


「ここなら(まと)があるし、ちょうどいい場所だよ」


 そう言ってカカシのひとつを指さす。


「よーし。腕ならしといくか」


 リボルバーを片手で構え、正面のカカシに狙いを付ける。距離はおよそ十五メートルといったところだ。

 撃鉄(ハンマー)を起こし、引き金(トリガー)に指をかける。

 傍らでヴィクトリアが固唾を飲んで見守るなか、破裂音が響いた。

 

「わっ!」


 銃口から火を噴いたリボルバーの予想以上の反動に驚き、よろけそうになる。

 的のカカシを見るが、無傷の状態だ。


「外れたのか……?」

「両手で構えたほうがいいよっ。反動が大きいからね」

「わかった!」


 言われたとおり、今度はしっかりと両手でグリップを構える。ふたたび撃鉄を起こし、二度目の破裂音。

 今度はわずかに掠めただけだ。


「まだまだ!」

 

 さらに続けて発砲を。だが、いずれも的には当たらない。


「くそ! なんで当たらねぇんだ!?」

「ちょっとまって。今のフォームを見て気づいたんだけど……」


 業を煮やす真壁にヴィクトリアがアドバイスする。


「ちゃんと照準を目標に合わせて……それと引き金はゆっくり引いたほうがいいと思うんだ。それとボクが見る限り、身体がこわばってると当たりづらくなるみたい」

「ようはリラックスしろってことか……」


 肩を目一杯上まであげ、だらんと下ろしたり、首をぐるぐる回したり、最後に深呼吸をする。

 

「……よし!」


 再度、銃を構える。ヴィクトリアのアドバイスを思い出しながら。


「両手でしっかりグリップ。照準を合わせて……ゆっくり引き金を引く……」

 

 銃口の上にあるフロントサイトを目標に合わせ、しっかりと構える。

 ふーっと息を吐き、ゆっくりと、だが確実に引き金を引く――――


 最後の銃弾は破裂音と同時にカカシの頭部を撃ち抜いた。


「やった……当たったぞ!」

「すごい! すごいよ! やっぱボクって天才だねっ」


 ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶヴィクトリアを傍らに真壁はリボルバーに目をやる。当たったときの感触がまだ手に残っている。


「これがあれば俺は……!」


 感触を忘れまいとぎゅっと力強く握った。


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