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14話 ルイーザ・マンション⑬


 (あるじ)を失った屋敷の玄関の扉が開かれ、そこから生徒会一行が太陽の光を受けながらぞろぞろと出る。

 会長を先頭にして真壁は疲労困憊のテンを背負い、その後ろをリリアとヴィクトリアがついてくる。


「……しっかし、ネックレスが見つかったのはいいとして、見つけた魔鉱石がたったのこれっぽっちとは……割に合わないぜ」

 

 真壁が手のひらに乗せた魔鉱石を見ながらため息をつく。ヴィクトリアいわく、たったの1%だそうな。


「この石ってヴィクトリアさんの実験室にあったものなのでしょうか? それにしては時代が合わないと思うのですが……」

「ボクのひいひいじーちゃんたちが集めたものとは別のものだねっ。今回はたまたまあの屋敷に魔鉱石のかけらがあったってワケさ☆」

「まぁ、ないよりはマシだろうけどさ……これから割に合わない冒険の旅に出ないといけないのかと思うと……」


 ふたたびため息を。


「そう言うでない。それよりわしはみんなで無事に帰ってこれるのが何より嬉しいのじゃ!」


 にかりと笑う。


「……ああ!」

「……ワタシ、もっと強くなるヨ。今度は石に頼らないでみせるネ……」


 真壁の背中でテンがそう言うと、すぐ眠りについた。


「……うむ! 今回の件で思い知らされたが、わしたちはもっともっと強くなるべきじゃ!」

「はいっ! 私もできる限りのサポートをしますっ」

「んじゃボクはすごい発明をするねっ」

「……俺はそうだな。魔法以外で出来ることをやるぞ!」


 全員の意気込みを聞いた会長がうんと頷き、ばっと拳を上げる。


「それでは学園に戻るぞ!」


 一行が帰路につくなか、ただひとりヴィクトリアは手のひらをじっと眺めていた。

 ルイーザに吸い込まれそうになった真壁の手をとっさに掴んだ感触がまだ残っている。


「……えへへっ」


 思わず頬が緩み、笑顔がほころぶ。


「どうしましたか? ヴィクトリアさん」

「へっ? いや、そのっ! なんでもないよっ」


 リリアが首を傾げる。


「そ、それよりさっ! はやく行こーよ!」


 たたたっと後を追いながらふたたび手のひらに目を落とす。そしてぎゅっと感触を逃さないかのように握った。

 そしてちらっと前を見る。その視線の先には真壁に背負われているテンが。


「……ちょっと羨ましいな」


 そうぽつりと零す。



 ――パンデモニウム女学園学長室。

 学長であり、メデューサであるエウリアは執務机にて書類整理をしているところだ。

 そこへコンコンとノックの音。


「どうぞお入りください」


 失礼しますと言って入ってきたのはサングラスをかけた生徒会一行だ。

 ルイーザの館からそのまま直行したので全員ボロボロの状態に学長は驚きを隠せない。


「ああ皆さん……よくぞご無事で!」


 机から立ち上がり、胸に手を当てながら安堵の吐息を漏らす。


「学長、ご所望のネックレスが見つかりました」

 

 ヴェルフェがこちらですと取り出してみせると、学長は目を丸くした。

 そしてネックレスを大事そうに受け取る。


「ああ……やはり、あの館にあったのですね」


 ぎゅっと両手で包み込むようにし、胸に当てた。

 ヴェルフェがルイーザの館で起きたことの顛末(てんまつ)を話し、最後にルイーザを倒してミアを解放したところまでくると、学長は口に手を当てながら涙を流す。


「そんなことが……」

「学長、ミアはあなたのご友人なのですね?」


 学長がこくりと頷く。

 

「ええ……確かに私たちは幼少の頃、ルイーザの館へ探検に行きました。私が探検に行こうと言わなければあんなことにはならなかったのに……」


 苦しそうにぎゅっと目を閉じながら。


「あの子は私の身代わりになってくれ、私は無事逃げることができたのです。何度もネックレスを探しに行こうとしたのですが、あの子は私を恨んでいるんじゃないかと思うと、動けなくて……」

「それは違います!」

 

 発せられた言葉に学長ははっとして目を開く。発したのはリリアだ。


「そのロケットを開けばわかります」


 言われたとおり、恐る恐るロケットを開く。するとそこには幼き少女の肖像画がはめ込まれている。

 屈託のない笑顔を浮かべる少女の頭部は無数の蛇で覆われていた。

 

「もし、学長のことをまだ恨んでいたらネックレスを捨てて逃げていたはずだよっ」


 リリアの横でヴィクトリアが断言するように。


「あの子、あなたによろしくと言ってましたよ。ここにいる全員が聞いてますから間違いないですよ!」


 真壁の言葉に全員が頷く。


「そう……なのですね。良かった。ネックレスが無事戻ってきて……」


 細く(しわ)だらけとなった指でネックレスを撫でる。


「皆さん、本当にありがとうございます……!」


 椅子に腰を下ろし、机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出す。

 羽根ペンを手に取り、さらさらと署名したのちに印章をどんと押す。そして会長へ手渡す。


「約束通り、外出許可証を差し上げます」

「うむ。しかと」


 学長がこくりと頷き、真壁のほうへ顔を向ける。


「真壁さん、それとあなたたちの旅が実りあらんことを祈っていますわ」


 会長が「失礼します」と言い置くと、生徒会一行は退出し、部屋には学長のみとなった。

 学長はひとりふうっと溜息をつくと、自らの首に手を回してネックレスを外す。

 ロケットを開くとそこにはミアの肖像画が。そしてミアから受け取ったネックレスを手に取って並べる。

 

「……長くかかってしまったけど、ようやくあなたに会えた気がするわ……」


 ふたつのロケットを手で包み込むようにして涙を流す。


「ごめんなさい……ごめんね。ミア……」



 その頃、廊下では外出許可証を手にしたヴェルフェが一行の前に立っていた。


「皆、ご苦労じゃった。これで学園の外に出られるというわけじゃ!」


 許可証を手にした拳を突き出す。

 

「今回、わしらは一致団結して困難に打ち勝った。この調子で魔鉱石を集めていくぞ!」


 会長の突き出した拳に生徒会一行が拳をごつんと合わせ、(とき)の声を上げるように全員が「おーっ!」と拳を上に上げる。



 真壁たちは外出許可証と魔鉱石を手に入れた! 

 現在の魔鉱石26%。満タンになるまで、あと74%――



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