14話 ルイーザ・マンション①
「うーす」
真壁が生徒会室の扉を開けながら。
「あ、真壁さんにヴィクトリアさん。お疲れ様です」
「遅かったのぅ」
「ふたりとも早く座るネ」
悪い悪いと適当に流して空いている椅子に腰掛ける。その隣にはヴィクトリアが座った。
テーブルにはいつもの目安箱から回収された嘆願書のほかに新聞紙らしきものが広げられていた。
「これって新聞か?」
真壁がその一部をつまむ。地方の出来事や事件などの記事が書かれている。
「うむ。これまでの魔鉱石を探しているときに気づいたことがあってな」
こほんと咳をしてから続ける。
「植物園の出来事を覚えてるな?」
「もちろん! ボクとイタルで活躍したからね☆」
「俺はモンスターに飲み込まれて大変だったがな」
「そこじゃ」
ヴェルフェがぴっと指さす。
「聞いた話ではあのモンスターは普段はあんなに暴れないそうじゃ。それともうひとつ、プールのスライムなんじゃが」
「私たちでろ過器からスライムさんを助けだしたときのですね!」
リリアがぱんっと手を合わせながら。
「プールが老廃物まみれで大変だったヨ」
「うむ。通常なら、スライムの老廃物はあそこまで膨大な量ではありえんのじゃ。すなわち……」
全員がごくりと唾を飲む。
「おそらく、いやきっと魔鉱石にはモンスターの魔力を増加させる力があるのではないかと思ったのじゃ」
「そ、そうか! 魔鉱石の持つ魔力で暴走してしまったってことだよ! きっと! 魔力保存の法則の観点からみて――」
さらに続けようとするヴィクトリアの説明を遮るようにして、ヴェルフェが続ける。
「そこでわしは学園の外でモンスターが暴走した事件か、魔鉱石に関する記事がないか各地から新聞を取り寄せたというわけじゃ」
言い終えると胸の前で両手を組み、ふんすっと薄い胸をそらす。
するとたちまち割れんばかりの拍手が。
「すごいです! さすがは会長です!」
「ボクでも気づかなかったよ!」
「これで魔鉱石が溜まる確率が28%アップしたヨ!」
テンが算盤の珠をぱちぱちと弾かせながら。
「で、肝心の情報は?」
真壁が新聞のひとつを読むが、さしてめぼしいことは書かれていそうになかった。
「うむ……そのことなのじゃが、もしやと思ったものをピックアップしてみたのじゃ。例えば……」
手元にあった新聞の記事のひとつを指さす。そこにはこう書かれてあった。
『ノワール地方にてグレイハウンドの群れが大量発生中。近辺に住む者は注意されたし』
「本来、グレイハウンドは一匹狼じゃ。このように群れをなすこと自体、極めて珍しいのじゃ」
「つまり、会長はこれは魔鉱石によるものではないかと考えておられるのですね?」
リリアの問いにこくりと頷く。
「じゃが、問題がひとつある。ノワール地方はここから遠く離れた辺境の地帯。学園の敷地から離れたところに行くには顧問の先生だけでなく、学長の許可が必要なのじゃ」
学長と聞いてリリア、テン、ヴィクトリアの三人が顔を曇らせる。
「学長から許可を取るのって、そんなに難しいのか?」
「うん……学長先生はなにより生徒の安全を第一に考えているからね……」
ヴィクトリアが面倒そうに答え、リリアが後を続ける。
「それだけでなく、学長先生に面会するのも命に関わるのです……ですから滅多に姿を現さないのですわ」
「命に関わる……?」
「それは直に会えばわかることじゃ」
椅子からすっくと立ち上がり、扉の方へと向かう。
「これから皆で学長と掛け合ってこよう」
全員が生徒会室を出、空っぽとなった部屋の窓の外では一台の馬車がちょうど停車するところであった。
「到着いたしました」
「うむ。ご苦労であった」
御者に労いの声をかけながら馬車の扉を開け、学園の敷地に降り立ったのは生徒会長の父――魔王だ。
魔王到着の知らせを受けたのか、学園からすぐさま甲冑と兜に身を包んだ騎士たち――風紀委員会が左右に整列して魔王を出迎える。
腰の鞘から剣を抜き、胸の前で剣先を上にして垂直に構えながら歓迎の意を表す。
屈強な騎士団の間を歩きながら魔王は学園の中へと――。




