12話 仄暗いプールの底から③
カンテラや照明機の明かりを頼りにハシゴを慎重に降りていき、やがて地面に足がつくところまできた。
「プールの下ってこんな感じになってたんだな」
真壁が照明機で辺りを照らす。構造は下水道と似たような感じだ。そして下水道と同じく真ん中に溝があり、側道で歩けるようになっている。
「全員降りたな?」
ヴェルフェが全員揃っていることを確認する。
「さて、真壁よ。どっちに向かえばいいのじゃ?」
「えーと……」
探知機も兼ねた照明機を左右に動かす。すると微かにだが、右側のほうが反応が強くなっている。
「こっちみたいだ」
「となると学園の内側になるな……では行くぞ」
ふたたび真壁が先頭に立ち、一行はカンテラを照らしながら側道を慎重に歩く。
地面には排水したプールの水がかかったためか、ヌメヌメとした感触があった。
「そういえばふと思ったのですが、排水された水はどこに行くのでしょうか?」
リリアの疑問にヴィクトリアが答える。
「それはね、このプールの下にあるタンクを通してろ過器に運ばれるんだよ☆ この方法だといろいろメリットが――」
「あ、それ以上の説明はいらないから。つまり、今回の事件はろ過器に問題があるってことだよな?」
「むー……せっかくこのボクがわかりやすい説明しようとしたのに……まぁ、ろ過器に問題があるのは確かだと思うよっ」
しばらく歩いていくと道が途切れた。いや正確には垂直に曲っていると言うべきか。見下ろすと溝の行き着く先、円形のタンクが見えた。
「あれがタンクか?」
真壁が照明機を照らすと、タンクには黒く濁った水がたまっている。
「ここにハシゴがあるヨ」
見ればテンの言う通り、下へと続くハシゴがあった。
「とにかく下に降りてみないと詳細がわからんのぅ……」
今度はヴェルフェを先頭にしてハシゴを降りていく。カンテラを手にしてるので慎重に降りていかないと滑りそうだ。
全員が慎重に降りていき、やがてタンクの横に到着する。すると真壁の持つ照明機から音が発せられた。さっきより大きい。
「さっきより反応が強くなってるな」
「ボクが見た限りではタンクに損傷はないみたい」
「とすると、やはりろ過器なのでしょうか……?」
カンテラで辺りを照らす。タンクからはパイプが繋がっており、奥へと伸びている。
「このパイプをたどっていけば、ろ過器に突き当たりそうじゃな」
照明機とカンテラでパイプを照らしながらたどっていく。
「パイプにも損傷はないみたいだね……っと」
ようやく目的地にたどり着いたようだ。ろ過器が目の前に現れた。
パイプに繋がれたそれは箱状をしており、ポンプらしき部品が上下にピストン運動を。
真壁が近づくと反応が大きくなった。
「もしかしてこの中に魔鉱石があるんじゃないのか?」
「ヴィクトリア、この機械は魔鉱石で動くものなのか?」
ヴェルフェの問いにヴィクトリアがろ過器の周りをぐるりと見回る。
「んーん、ボクの見立てだとこの機械は単純な構造だから魔鉱石を使うようなフクザツなものじゃないみたいだよ。そもそも魔鉱石が使われる機械なんてレアだからめったにないはず……」
おかしいなとヴィクトリアが親指と人差し指を顎に当てながら考える。
「みんな、ここから何か聞こえるみたいヨ」
テンがろ過器に耳を当てながら言う。
全員が機械に耳を近づけてみる。すると微かにだが、うめき声のようなものが聞こえてきた。機械音でも作動音でもない、はっきりと生きているものの声だ。
「も、もしかして、この機械に誰かが閉じ込められているのではないでしょうか……?」
リリアが胸の前できゅっと手を組む。
「ヴィクトリア、そんなことがあり得るかの?」
「う、うん……プールの水を抜くときに巻き込まれてしまう可能性はあると思うよっ」
「だとすると、すぐに助けねばならんな!」
「ここでボクの秘密道具の出番だね!」
ヴィクトリアが防護服のベルトに差し込んだ道具を手にしてろ過器の横へしゃがむ。
「みんな、強い光が出るから少しの間目を閉じててっ」
ヘルメットを脱ぎ、予備のゴーグルを装着。次に手にした道具の先端を回すと青い炎が細く伸びた。
その細い炎をろ過器をつなぐパイプに当てると火花とともにまばゆい光が辺りを照らす。
「なるほど! バーナーで焼き切るってワケか!」
「そのとおり! 科学者の必須アイテムさ☆」
ジジジッと音を立てながらゆっくりと溶断していき、だんだんと切れ目が伸びていく。
やがて一周するとガコンと音を立てて外れたかと思うと、いきなり黒い塊のようなものが流れ込んできた。
「うわわっ」
「大丈夫か!? ヴィック!」
真壁がヴィクトリアをろ過器から引き離す。
「さんきゅ! 助かったよ!」
「しかし、これは一体なんなんじゃ……? 油のように見えるが」
ヴェルフェの言う通り、それはまさに油の塊と言ってよかった。表面がてらてらとしてぬめっている。
「う、うぅ……」
油の塊からうめき声がした。そしてぬるりと緩慢な動きで真壁たちに近づく。
「みな、下がれ!」
ヴェルフェが一同に下がるよう命令を。




