12話 仄暗いプールの底から②
「まじかよ……これ」
体操着に着替えた真壁たちがプールに着いたとき、一言がそれだった。
プール場は現実世界の学園のとそう変わらないが、プールの水はどす黒く濁っていた。それこそ底が見えないくらいに。
「小学校のとき、プール掃除やったことはあるけど、これそんなレベルじゃねーぞ」
「やから言うたやろ。さすがのウチでもこん中に入りたいとは思わへんわ」
真壁の横で顧問であるシルヴィーが煙管を咥えながら。
「これ、先生の魔法でどーにかなんねーのか?」
「ムリや。正体がわからんことには魔力の無駄使いや。それにいくら掃除しても水入れたらまた元通りになるんよ」
「あんたそれでも先生か!」
真壁がツッコむ後ろでリリアとテンが排水バルブのハンドルを回す。
少しずつ水が抜けていき、だんだんと加速していったかと思えば水槽はあっという間に空になった。
「ふむ……見たところ、あちこち床に汚れがあるな」
ヴェルフェが水槽を見下ろしながら。
「とにかく掃除しなきゃな……」
真壁がモップを手に水槽の床に降り立つ。ぬるっとした感触が足の裏に伝わってくる。
「みんな気をつけろ。ヌルヌルして滑りやすいぞ」
残る生徒会一同もモップを手に降り立つ。ただひとりシルヴィーを除いては。
「あれ? 先生は手伝わないのですか?」
「ウチはあくまであんたらがサボらんよう、見張っとくだけや。ほながんばりー」
リリアの問いにひらひらと手を振ると、デッキチェアにもたれ、煙管を咥える。
「あれで先生なのかよ! しゃーねぇ! 俺たちだけでやるぞ!」
モップに怒りを込めるかのようにしてゴシゴシと磨いていく。
その時だ。真壁のポケットからアラームに似た音がしたのは。
魔鉱石探知のスティックだ。
「お、おい! これってたしか……」
「共鳴音だよっ。ここはボクの出番だね☆」
同じく体操着に身を包み、さらに白衣をはおったヴィクトリアがゴーグルを装着する。
「ボクのゴーグルは魔力測定機にもなってるんだよっ」
そう言うなりゴーグルのレンズ部分を回す。
「ふんふん……なるほど、7%の魔力が……あ、あれ? どんどん数値が上がっていく!?」
ゴーグルからピピピと音がした瞬間にはレンズが破裂した。
「くっ……! 限界を超えたみたいだよっ」
「……その爆発する仕様っているのか?」
スティックを取り出して辺りを探ってみる。すると共鳴音と輝きがだんだんと増していく。
「これってやっぱあそこだよな……」
「そのようじゃな。他に魔鉱石は見当たらんしのぅ……」
真壁とヴェルフェふたりの視線の先には排水口が。
一同が厳重な鉄格子がはめ込まれた排水口の周りに集まる。
「やっぱりだ。さっきより反応が強くなっている」
「魔鉱石はこの下にあるということネ?」
「しかし、これでは暗くてよく見えんな……」
「だねっ。ボクの照明機だけじゃ足りないよ」
「それでは私がカンテラを取ってきますね!」
「まって! ボクも取りに行かないといけないものあるから!」
リリアが人数分のカンデラを手に戻ってくると、それぞれに渡す。シルヴィーは相変わらずデッキチェアで煙を吹かすだけだ。
「おまたせ! はいこれ!」
戻ってきたヴィクトリアが渡したのはオレンジ色のゴムで出来た、ウェットスーツに似たようなものだ。
「防護服だよっ。万が一のために造ったものだけど役に立つんじゃないかな」
「その万が一というのが何なのか気になるが、まあよい。ありがたく使わせてもらうとしよう」
ヴェルフェが彼女のために仕立てられた防護服を装着する。
最後にヘルメットを被ると、ちょうど全員が装着し終えたところだ。
「よいか? 皆、今から排水口へ降りるぞ」
ヴェルフェがヘルメットのガラス越しに言うと全員がこくりと頷く。
真壁とヴィクトリアのふたりが鉄格子の蓋を持ち上げ、ぽっかりと穴が開いた。
穴の横には点検用のハシゴが。ヴィクトリアから照明機を受け取って魔鉱石をはめ込むと淡く輝きはじめた。
「ボクがさらに改良を加えた照明機だから、ある程度長く照らせるよ☆ もちろん探知機としての機能も働いてるからね!」
「さんきゅ!」
真壁を先頭にして一同は仄暗い底へと降りていく。




