64.エルエル、尻込みする
「エルエル追手が来てるぜ」
「ゴーレムを足止めに回しました。急ぎましょう」
ゴーレムが破砕される音が聞こえた。
グーフゥとウィスタが合流したのは同じくらい。
すでに一戦交えて来たらしい。グーフゥが返り血を浴びていた。
「抵抗されている。このくらいが精いっぱい」
「上を開きますか」
「上も押さえられてるかも」
「このまま行っても同じだろう。魔力は大丈夫か?」
「厳しいですが、運んでもらえたら」
「それだと歩いたほうがマシかもしれん」
「それより、話しかけてくるから気を付けて。考えを誘導される」
「なに言ってるかわからないから大丈夫ですよ」
「魅了を受けた時も指示はわからなかったな」
思念でも言語の壁はあったらしい。
じゃあグーフゥは何を考えていたのかと聞くと、自分で考えて吸血鬼が封じられている状態を解放しようと動いたそうだ。
言葉が通じなくとも自分で考えさせて行動させる、魅了という魔法効果は非常に恐ろしいものだ。
制御が難しいものかもしれないが。
有能な相手を魅了で支配下に置くことができれば自分で考えて術者のために動く。
その点においてはエルフの魔法とも近いところがあるかもしれない。勝手に動くというのは思わぬ暴走を招くこともある。
だがそうすると、オーガの操り方が疑問に思えてくる。
具体的な指示が出せないのにどうやって細かく操っていたのか。
古代語を扱うオーガでもいたのだろうか。
あるいはもっと別の方法があるのか。
「あ」
「どうした」「どうしました?」
一つ、ひどく大雑把で、しかし精霊の希望を叶え、敵を排除できる手を思いつく。
大雑把すぎて巻き込まれる危険もあるが、いや、しかし。
疲れているのかもしれない。
こんなことを考えてしまうとは。
「何か思いついたら言ってください」
「一人で判断するなよ。魔法の維持に意識を割いてるんだろ」
精霊にだいたい任せているのでさほどの負担ではないが、グーフゥの言うように自分だけで判断するのは違うかもしれない。
生死を共にする仲間であるなら、危険を込みで全員が賛成するなら。
エルエルは考えを伝えてみた。
「やりましょう」
「本気か。崩れないか?」
「この位置なら大丈夫でしょう。それより魔力は大丈夫ですか? 中途半端になるとよくないかと」
「それは平気」
「魔力多いですねぇ。なら、やってしまいましょう」
「ウィスタ、その方が後の説得がやりやすいとか考えてないか」
「逃げるのにも有利だと思っていますよ」
「うまくいけばだがな」
まさかの乗り気であった。主にウィスタが。
いいのかな。
エルエルは言い出しておいて少し尻込みしていた。
「余波が来ると思う」
「そのためのゴーレムたちです」
「そこまで自信があるなら、エルエル、やっちまえ」
エルエルは頷いた。
「わかった。やって」
エルエルは言った。
「星が沢山流れるのは人間の言葉で流星雨、で合っている?」
「合っていますよ」
「実際に大地まで墜ちてくることは稀だがな」
グーフゥがそう言うと同時に、地鳴りが始まった。
「地面が揺れてるぞ」
「大丈夫です。進みましょう」
何が起きているか。
地上に流れ星が降り注いでいるのだ。
オーガの領域である盆地を中心に、精霊たちにやっちゃって、と雑に頼んだ。
性質上、あまり使えない大規模破壊を引き起こす、流れ星。
流れの精霊も星の精霊も、いつだって力をふるいたいと思っている。
力の強い精霊は、影響力も大きい。星の精霊は非常に力が強い精霊なので、滅多に力をふるう機会がないらしく、流れの精霊に協力的であった。
初めて試した時など、しばらくの間、ちらちらと様子をうかがってきていた。
どう、いつでも手を貸すけど、気軽に言ってくれよ、のようなことを会うごとに言ってくるような感覚だ。
それを今回はあまり制限をかけずに任せた。
先日使ってからまたせっつかれてもいたので、選択肢に浮かんだところはある。
エルエルたちの進路はゴーレムが固めてくれている。
距離があるので大丈夫と思いたいが、結構な規模で地面をくりぬいているので不安はある。
「こっちも戦略級の魔法が飛び交う場所で使う想定の魔法ですよ」
ウィスタは自信があるようだ。
地響きは鳴りやまないが、確かにゴーレムの壁や天井は強固だ。
オーガに砕かれる心配があるとは思えないほど。
「力の流れを分散して吸収する構造を研究しているんですよ」
ウィスタが胸を張っていた。
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