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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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61.エルエル、焦る

 吸血鬼。

 人間が変化したモンスターの一種と伝わっている。

 人間の生き血を吸い、不老不死。

 正確には非常に死ににくく、少なくとも寿命は人間の限界を超えているという。エルフとどっちが長生きかは知らない。


 いわゆる不死者、ゾンビやスケルトンなどと同様の特性を持つが、先にも述べたようにその不死性はそれら以上である。


 どうすれば倒せるのだったか。

 毒は効いていない。

 目から脳みそまで貫いたと思うのだけれど。


「魅了の視線、変身、噛みつきによる感染に気を付けてください。他に、人間ができることはなにをしてきてもおかしくありません!」

「役に立つ助言だ」


 どうすれば倒せるのか。


 吸血鬼はエルエルを無視し、ゆったりとした動きでウィスタへ向かう。

 エルエルの攻撃は無害と判断したのだろうか。

 確かに先ほどの攻撃は無効化されたわけだが。


「白木の杭で心臓を貫けば亡びます」

「拘束できる?」

「銀と聖印と日光に弱い」

「銀貨で殴ったら効くかな?」

『あきらめる。お前たち終わり』


 敵はこちらの言葉がわかっていないようだ。

 エルエルはわずかに悩んだ。会話を介して精神汚染をしてくる類かもしれない。そうでなくとも、言っていることがわかると気づかれるのは有利を潰すかもしれない。


 だが。


『ここでなにをしているのか』


 エルエルは話しかけることを選んだ。

 少しでも情報を聞き出すべきだと考えたのだ。

 時間稼ぎの意味もある。

 倒し方を模索する時間が欲しい。


『言葉分かるか、下の生き物』

『何をしているのかと訊いている』

『言葉へたくそか。どこの辺境の者か。エルフだったか。くふふ』


 あんまり人の話を聞かない類の輩のようだ。

 エルエルはそういう相手には慣れている。

 年寄りはだいたいそうだからだ。


「誘いに乗ってはならない、ええとそれから、聖水」


 ウィスタが言葉が通じないのをいいことに吸血鬼についての知識を思いつくままに挙げている。


 聖印も聖水もないし、ここは地の底で日光も難しい。

 早く倒し方を見つけないと、魅了を受けてゴーレムの下敷きになっているグーフゥが復帰してくる。

 そうなればますます不利になる。


『何を、聞いた。我、ヴォルギガズゴグド。この地統べる未来』

「ぼるぎがずごくど」

『ヴォルギガズゴグド』


 話の流れからしてたぶん名前だ。


 要約するとこの地を支配したいのでそのように活動しているのだろう。

 たぶん。

 であれば、他国の工作員ではないだろう。

 大昔の言葉しか知らない工作員なんて役に立つまい。

 あるいは実はわかっていてウィスタの言葉を聞き流しているのか?

 古い言葉に反応したことから、そうではないように思うけれど。


 ゴブリン、オーク、オーガを支配しているものの正体はこの吸血鬼なのだろう。

 由来はわからないが、昔の言葉を使うからには、あるいはこの施設に関わりがあるのか。

 エルエルは考え込みそうになったが、一旦棚上げする。

 今はそれよりも生き残ることが先だ。

 ゆっくり転移の施設を分析している余裕はない。

 吸血鬼を倒すことを考えなければ。


『巨鬼と仲良しか』

『家畜?』

「あ、もういい」


 ウィスタがある薬草に弱いと言い出したが、あいにく手持ちにはなかった。知っていれば毒に混ぜていたものを。

 意外と弱点が多いようだが、知っていればのもの。

 知らずに戦うにはあまりにも厄介な相手だ。


 エルエルはこっそりお金を取り出して握りこむ。

 冒険者のお金、銀貨。

 今のところあてになりそうなのはこれくらいだ。

 問題はこれで攻撃しても、小石をぶつけられた程度にしかならないのではないかということだが。


『助ける。邪魔しないエルフ』

『邪魔をしないエルフは居ない』


 やってみなければわからない、か。

 エルエルは覚悟を決めた。

 吸血鬼について、もっと知っておくべきだった。長い時間を生きるエルフの力は知識と継続の積み重ねによるものが大きい。

 それが足りていないのはエルエルの力不足に他ならない。

 人間特有の知識ならば別だが、吸血鬼はエルフにとっても敵なのだから。


「それから、流れる水を渡れな――」


 エルエルは再び切り札を使った。


 ひとつ。流れる水をふたつ。流れる水みっつ。流れよっつ。流いつつ。むっつ。ななつ。やっつ。ここのつ。とお。


 流れる水が吸血鬼を包み込む。


「最初に聞きたかった」

「ごめんなさい、滅多に使わない知識はなかなか出てこないのです」


 そしてグーフゥがゴーレムたちを跳ね飛ばし、立ち上がった。

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