表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/67

60.エルエル、突入する

 大地が揺れる音がする。


 地震ではない。


 ゴーレムによって支えられていた空間の、天井が落ちてくる。


 ウィスタは、建物一つ分の空間を掘りぬいた。

 分かれた半分が断層が出来たときに移動した分と同じだけ。

 ちょうど、転移施設がある場所の直下に当たる場所を掘りぬいて、今、一気に支えを外したのである。



 すると何が起こるのか。


 地中に埋まって寸断されても原型をきれいに保っていた建物が、そのまま落ちてくるのである。




 地響きを伴って落ちてくる建物の半分。

 エルエルたちは探索したもう半分の中に退避している。


 その結果、若干のずれと傾きはあるものの、大体元あったであろう位置に、建物が帰ってきた。


 よくもこんな大規模なことをして、小さな誤差で済ませられるものだ。

 エルエルは感心したが、ウィスタはちょっとズレたことが不満のようであった。


「よし、行くぞ」


 今日の転移は使用された。

 一日一度使われている転移で逃げられる心配は低くなった。

 オーガの洞窟と繋がっていた場所は逆に寸断されている。

 増援の心配も少なくなった。


 あとは施設内に残っている敵を殲滅する。

 グーフゥを先頭に、施設のオーガ側に突入した。

 エルエル、ウィスタが続き、さらに残ったゴーレムたちが追ってくる。



 オーガ側は薄汚れていたが、地図通りの構造のままだった。

 たまに何かの骨や皮が打ち捨てられているが無視。

 最短で転送管理室へ進む。

 邪魔をする者は居なかった。

 しゃがんだり四つん這いのオーガを見る機会はまたになりそうだ。


 転送管理室は扉が閉じていた。


「向こうも鍵を使っているな」

「ゴーレムちゃん」


 ウィスタがゴーレムに命じて、扉の位置の前で積み上がらせる。

 これで扉が開いても出ることはできない。

 エルエルたちは隣の部屋に入った。


「これは……!」

「やるぞ?」

「はい。相手は人間大の知的生命体。オーガではありません」

「わかった」


 室内の様子を見て、ウィスタが判断する。

 その部屋は片付いているが、いくつか物があった。

 例えば荒く木を削って作られた椅子。

 この施設にあったものではないだろう。

 例えば板。

 表面に何か刻まれている。

 数字だ。何かの記録だろうか。


 そしてその大きさはオーガの手には小さすぎる物ばかり。

 確かに、人間やエルフと同程度の大きさのなにかがここで活動しているようだ。


「三、二……」


 一、零。


 グーフゥが壁に当てていた左手の場所に亀裂が入る。


 彼が言うには、この壁は瞬間的な衝撃波吸収するが、ゆっくりかけられる横方向からの圧力にはそれほど強くないらしい。

 一定以上の負荷をかけた状態で、岩を砕ける程度の力があれば抜ける。

 そう言った。


 そして今、左手で圧している場所のすぐ横を、右こぶしを叩きつけた。


 まるで氷が割れるような音がして。


 壁が一面砕けて落ちた。



 その向こうにいたのは。


「いけません目を見たら――」


 爛々と赤い目を光らせる人間大の男。

 エルエルはとっさに視線を流した。


 グーフゥがこちらに振り向いた。

 目の焦点が合っていない。


 エルエルは迷わず切り札を使った。





 流れが加速する。






 ひとつ。光る双眼に向けて毒矢を放つ。

 ふたつ。すでに剣をこちらに向けて振りかざしているグーフゥの足を払う。

 みっつ。前に出て転送管理室を確認する。

 よっつ。非常用と書かれた場所を力いっぱいぶん殴る。

 いつつ。えっと、あとは。







 流れがもどる。


「ゴーレム!」


 ウィスタが命じると、ゴーレムたちが一斉に床にひっくり返ったグーフゥに飛び掛かった。


 敵は。

 エルエルの矢は敵の眼孔を撃ち抜いている。


『エルフ。ひどいあいさつ』


 昔の言葉。

 こいつは、頭に毒を打ち込んでも死なないのか。


 弓を撃つには距離が近い。

 エルエルは矢を左手に持ち、右手で剣を抜いた。


『無駄やめる』


 その言葉と同時に敵の形が崩れる。真っ黒なモヤモヤとした何かになって、刺さっていた矢が地面に落ちる。

 そしてすぐに元の形に戻る。

 矢が刺さっていた目も元通りだ。


「吸血鬼です! 簡単には死にません!」


 簡単に死なないといわれても困る。


『人間メスうまそう』


 吸血鬼が隣の部屋に取り残された状態のウィスタを見る。

 お互い言葉は通じていないようだが、この状況なら何を言っているのかお互い想像がつくだろう。



 それはそれとしてグーフゥはあとで落ち込みそうだな、とエルエルは思った。

面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ