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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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59.エルエル、作戦開始

 自己増殖型穴掘りゴーレムはウィスタの魔法で生まれたゴーレムだ。

 ゴーレムというのは術者の指示に従って動く魔法人形を指すそうだ。

 エルエルの腰ほどの大きさしかないが、とても役に立つ。


 穴掘りゴーレムと聞いて、エルエルははじめ、人形がよいしょよいしょと人間と同じような動きで穴を掘るものだと思っていた。


 しかし、自己増殖型穴掘りゴーレムは違った。


 ゴーレムが土や石をちょんと触ると、触った部分を中心にもぞもぞと動き出して新たなゴーレムとなり、ゴーレムの素材となった部分の土や石が除かれる。

 ゴーレムは自分の足で移動するので土砂を運ぶ必要もない。

 掘ってないような気がするが、穴が出来ていくのだから穴掘りなのだとウィスタは言う。


 できたゴーレムは壁に張り付いて補強したり、積み上がって足場になったり、事前に決められた動きをするし、臨機応変にも動かせる。

 手が空いたゴーレムは跳んだり回ったりし始めるのでエルエルが何かと尋ねたところ、ウィスタはかわいいでしょと答えた。


 かわいいだろうか。かわいいかもしれない。かわいいのだろう。


 くるくる回って隣のゴーレムにぶつかって、隣のゴーレムが両腕を振り上げてピョンピョン跳ねて、ぶつかったゴーレムが逃げるように駆けていく。芸が細かい。


 そのうえで、魔力の隠ぺいはエルエルの目からしても高度だ。

 魔力で気付くよりも耳や目、気配で気付くほうが早いくらいである。


 穴を掘ることをゴーレム魔法で実現し、労力を減らすどころか人手を増やすというのは、なるほどよく考えられていると思う。

 しかし、気づかれないことと両立させる意味がエルエルとしてはあまり考えつかなかった。

 尋ねるとウィスタも、グーフゥも視線を逸らす。


「まるで今の状況のために考えられた魔法のようだ。人間の魔法使いが、地中から攻め込む場所がある?」

「わかってるんじゃねぇか」

「うん?」


 結局話してくれたことをまとめると。

 人間が作る石の壁の場所を攻めるための魔法らしい。


「人間同士で争う時のための魔法」

「そういうことです」


 それで言及をためらっていたらしい。

 人間同士の争いの手段ということで気まずかったのかもしれない。


 なるほど、石の壁を見たとき、エルエルも思ったものだ。

 上か下からだなと。

 横が硬いのだから当然である。

 もちろん、守る側も対処しているだろう。

 ただ、一見してまず考えるのは上か下か、そういうことだ。

 それこそ、今回の作戦のような攻め方をするのだろう。

 成功すれば地上は機能停止に追い込まれるか、よくても大きく混乱するはず。


 巨大な石の壁に見合った大規模なことをするものだ。

 数が多い分、規模も大きくなるということだろうか。


 エルエルたちの話の内容に関係なく、ゴーレムたちは生まれては歩いて踊って組み上がっていく。

 ゴーレムになった時点で土砂は固まり、石も組み上げられるのに都合の良い形に変形している。そのため、体積は減少し、その分地下空間が広がっていく。

 空間が出来れば崩れそうなものだが、ゴーレムたちが柱になり壁になり補強されることで崩れ落ちはしない。

 同族戦争に使わずとも、地下資源の採掘にも使えるのではないだろうか。

 きっとその方がいい。

 魔法の使い手が疲弊してもゆっくり休めるだろうし。



 今回の作戦ではウィスタは突入の下準備までが役目である。

 狭い場所でオーガや、オーガを操るような敵と相対するのは向いていないので、それまでに働いてもらうことになったのだ。

 本人の目算では、これだけやったら脱出がギリギリかもしれないとのことで、ギリギリということは大丈夫ということだなとなって作戦が決まった。

 エルエルは少し心配だったので、わずかながら魔力の回復を早める薬を作って飲ませておいた。このあたりで採取できる素材では微々たる効果だが。自身も服用している。敵がわからないならこちらでできることはやっておくべきだろう。


 グーフゥが主力。

 エルエルは援護。

 ウィスタは一休み。

 臨機応変に。


 少しずつ準備が整っていく。

 刻一刻と時間が近づいてきている。

 狩りで獲物を待つ時間と似ている。

 気を昂らせてはいけない。

 獣は気づいてしまう。

 相手は獣ではない。

 それなら大丈夫だろうか。

 獣並みに鋭かったら困る。

 それならだめだろう。

 三人とも、言葉が少なくなっていった。





 そして、今日の転移の反応があった。

 発信源は近い。



「やりますよ」

「ああ」

「うん」


 作戦開始。

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