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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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58.エルエル、骨をしゃぶる

「遺跡の探索は思ったよりあっさりと終わったな」

「こんなに都合のいい遺跡は滅多に見つかりませんから、ほかの遺跡で油断はしないでくださいよ?」


 遺跡の構造の情報を得ることはできた。


 この情報を基に作戦を立てた。

 そして、最後になるかもしれない食事をとる。

 エルエルが獲ってきた鳥を、残り少なくなってきた調味料を使って豪快に焼く。

 エルエルは手羽と足を一本ずつもらえた。

 魔力節約のために手で羽根をむしったが、その甲斐はあった。

 食べなれた食べ方だが、これもまたいい。調味料の力もあって朱の森にいたころとはまた違う。

 骨から肉を外すようにして食べていく。

 味付けでこうも変わるのだから、人間の料理は面白い。

 何百年も同じ食べ方を続けるエルフにも、この工夫の精神を取り入れていくべきではないだろうか。


 きっと森の奥にいることで、手に入るものに最適化していって必要十分以上のことを排除していったのではないだろうか。

 エルフにはそういうところがあると思う。

 天候などで森の恵みには波があるのだから、より少なく簡素になっていくのは当然なのかもしれない。

 少ないほうに合わせておけば、どちらにも対応できるわけなので。


 しかし、人間はできることを増やしてきたのだろう。

 住めない場所を住めるようにして、場所によって違うものを作って交易する。

 そうして集まったものを組み合わせていくと、お菓子や調味料が生まれていく。


 きっと、ザッカーの砂糖もどこかでザッカーとは違う使い方をされて別のなにかになっているのだろう。

 そういう広がりが、エルフと人間の支配領域の違いなのだと思う。


 一方で、エルフのほうが手に入る薬草などの質は高い。

 何もかもが人間が優位であるということは決してない。

 人間が発展していけばいつかそうなることはあるかもしれないが、エルフがもつ知識や技術の方が優れている点も多くある。

 総合してどちらが優れているか、ということに意味はない。

 エルフも人間も、やり方も成果も違うのだから、これは住み分けだろう。

 だが、良いところを分析してそれぞれが活用できる部分を取り入れることはできるはずだ。

 エルエルの役目はきっとそこにある。

 エルフの生活は放っておくとどんどん単調になる。

 森の獣の縄張りの移り変わりや、天候くらいしか気にしなくなっていく。

 そこにあるのは適応で無駄を切り落としていくことだ。

 初めから持っているものよりも良いものは手に入らない。


 エルフは森の外にこそ目を向けて、良いものを見てエルフが持つ物を増やしていかなければならない。

 おいしいものとか。

 おいしいたべかたとか。

 例えばね。


 そうでなければきっとエルフは長生きなだけで先細りしていくことになる。

 森を出てわずかな時間で、エルエルはそんなことを考えるようになっていた。

 もともと森の外を見たいと思うようなエルフだったからかもしれないが、人間の街に来てから見聞きしたものが、エルエルに与えた影響は間違いなく大きい。

 この体験を朱の森に持ち帰ること。

 そして適うならば、それを証明するものをもちかえりたいところだ。

 それは物自体でもいいが、技術と知識である方がきっと望ましい。

 砂糖を持ち帰るよりは、一緒にお菓子の作り方を覚えて朱の森で作ってみせるというようなことだ。

 外の世界すごいで終わらせない。エルフでもできるということを見せるのがきっといいと思う。


 森の奥という慣れた環境と、食べなれた鳥。これに調味料が加わった。

 エルフの生活に少し加えるだけでもずいぶん変わるのだ。

 こういうことを見て聞いて味わってくるのだ。


 人間の世界に詳しいと自称していたエルフがいろいろと話してくれたのも、エルエルが今感じていることと同じようなことを感じたからだろうと思う。


「エルエルさん、どうかしました?」


 骨をガジガジしながら考え込んでいると、ウィスタが顔を覗き込んでくる。


「エルフはもっとおいしいものを追求してもいいと思う、と考えていた」

「そうですね。お仕事終わったらおいしい店を紹介しますよ。報酬もたくさんもらえるでしょうから、一緒に行きましょう」

「興味があるな。しばらくザッカーに滞在するんだ、騎士団の連中にも地元のおいしいところを教えてやってくれるか」

「騎士様が来るとお店の方が緊張しちゃうかもしれませんね」

「鎧は外していくように言っておくか」


 次に転移の反応を確認したら、攻める。

 そう決めて、ザッカーに連絡もしてある。次の連絡がなければ失敗と判断するようにとも伝えた。

 エルエルたちの状況は煮詰まった。

 あとは動く、そういう段階にきて、三人はなかなかに落ち着いていた。

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