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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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55.エルエル、見つける

 危険がありそうかだけ確認して通り過ぎた、冒険者ギルドの受付のような場所を改めて調べることになった。


「エルエルさん、この模様、文字列では?」

「あ、うん。えっと、見守る、待機、のような言葉」


 奥と通路を隔てる床に据え付けてある横長い机に描かれていた文字を読むと、ウィスタは首を傾げた。


「見張所でしょうか?」

「それだと奥の部屋に鍵がかからないのが疑問だが」

「では……中を探してみましょう」


 内部は、作業用と思われる机と、壁には棚が並んでいた。

 机は個人用の事務机のようだとグーフゥが言う。


 机の下に棚がくっついていた。引き出し? そう。

 素材は壁と似ているけれど、表面がもっとなめらかだった。

 つるりと滑るほどではないけれど。滑るようだとものを上に置けなくて困るそうだ。なるほど、とエルエルは感心した。


 引き出しの中は空っぽだった。


「ということは、地に埋まったのはそれほど急に起きたことではないということでしょうか」

「施設の廃棄と埋まった件は関係ない別の時期に起きただけという場合もあるんじゃないか」


 そういうことを考えるのだなと思いながら、エルエルは文字を探した。

 それがエルエルの役目だろう。


 机に何もないのならば棚だろう。


「消える、毒、薬」

「解毒薬を置く棚でしょうか」

「こっちも薬のようだけれど、知らない単語が繋がっていてなにかはわからない」


 ほかには記録とかかれた棚が一番大きく、名簿とかかれた棚もあった。


「施療院か救護室のように感じるな」

「この部屋で処置していたのではなさそうなので、ここは主に事務作業をしつつ待機する部屋なのではないかと。とすると、これまで回った部屋は病室でしょうか」


 それなら罠や鍵がないことに説明がつくという。

 怪我や病気を治す場所に罠なんてあったら困る。その通りだ。

 部屋に間違って鍵がかかって開かなくなって、中で容体が悪化したら困る。その通りだ。

 逆に鍵がかかっている場所は、怪我人や病人が用がない場所ということらしい。


「金庫とか、薬剤の倉庫あたりか」

「症例や対処法の記録はどこかにありそうですね」

「そういうことなら鍵はここにありそうだが、別に警備室があるならそっちか?」


 そんな話を聞きながらぐるりと見て回っていると、一番奥、通路側からは見えない場所にある棚に、束ねられ小さな箱に入れられたものがあった。


「これは触ってもいい?」

「なんでしょう?」


 そこにあったのは色とりどりの板の束だった。

 箱は板にピッタリの大きさで、束を半分と少し囲う形だ。取り出しやすそうである。

 大きさは手のひらよりも小さいが、そろっている。

 赤が多く、黄色、緑、青、紫と順に数が少なくなっている。

 微弱だが魔力を発しているようだった。


「ほかの品は引き上げられているのにこれだけ残っているというのは怪しいですね」

「これが鍵なんじゃないか。施設を引き渡す際には鍵だけ置いておくことはある。普通は直接次の所有者か管理者に預けるが……」


 何か事情があればわかるように置いておくだろうとのことだ。


 触ってもいいとのことなので、魔力的刺激を与えないように箱から取り出す。


「赤、黄、緑……色が書いてある」

「子供に文字を教える道具か?」


 だとするとそんなものだけ置いてあるのはどういうことか。


「あ、それが鍵だと思います。一万年以上残っているということは重要なもののはずです」

「そうか、残る素材か、加工がないと長く形が残らないか」


 建物自体が残っているし、内部は汚れていないが、昔の建物であった。

 普通は一万四千年残らない。確かに。木でもだいたい寿命が来るだろう。木材にすれば朽ちるだろう。

 長く残る素材は珍しい。

 そういうものを使うなら、ありふれた日用品ではなく、なにかしらの重要なものであると考えられるわけだ。

 あるいは耐久性や強靭さが求められるものか。

 この板が耐久性を求められるかと言えばわからない。今のところ思いつかない。


「持って行ってみればわかる?」

「そうですね、他になければ試してみましょう」


 結局他にそれらしいものは見つからず、しっかり引き上げられているようだった。

 全員でそれを確認して、開かなかった場所に移動する。


「どう使うんだ?」

「手を振れる場所に板を当ててみる、でしょうか。合言葉などがあったらお手上げです」

「やってみる」


 箱ごと押し当ててみたが、無反応だった。

 次に、一番多い赤の板を当ててみる。

 やはり反応なし。

 順に試していったところ、青の板に反応し、道が開いた。


「やりましたね!」

「気をつけろよ、鍵の奥はこちら側とは条件が違うぜ」

「そうですね。ひとまず魔法的な仕掛けは見当たりませんが……」


 ようやく探索が前に進んだ。

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