54.エルエル、実感する
「想像以上に快適な施設ですね。地中にあったのに空気の調整が生きているのでしょうか?」
「空気が腐ってたりはしてないみたいだな」
「エルエルさん、何かやりました?」
「流れるようになった。しばらくは淀むことはないと思う」
「深いダンジョンにはいる時にほしいですね」
「褒めると張り切ってやりすぎるからあまり言わない方がいい」
「そういうものなのか」
「でも悪口はもっと言ってはいけない」
「気を付けます」
建物の内部は想像以上に快適だった。
通路は二人が両手を広げてすれ違えるほど、天井はエルエル二人分程度。これほど大きくする必要がアあるのだろうか。
狭いと息が詰まる? それはそうかもしれない。
しかし扉は人間やエルフの大きさに合わせているようだった。
少なくとも、この施設を建設したのはエルフと同程度の体格の種族だろう。
壁に継ぎ目は見えないが、扉がある場所は壁を見ればわかる。
ウィスタやグーフゥには模様と見分けが難しいようだが、開く、閉めるという意味の文字が書いてある。
カギはかかっていない。
扉は先ほどの、溶けるように消えたり、にゅるりと押し出すように現れたりするもので、等間隔で並んでいた。
扉の奥は同じ形状の部屋になっており、エルエルの印象からすると宿の部屋のようだった。寝台らしきものがあったからだ。
部屋の広さにはずいぶん余裕があるが。
ザッカーの街の宿の、クーニャとエルエルの部屋はもっと狭い。
だが、この部屋は寝台の周りに十分な空間があった。
お高い宿だろうか?
お高い宿は空間を贅沢に使っているという話だ。
「宿にしては鍵がないな」
「そうですね。触っているだけでしょう? 鍵のような意味のものはありませんか?」
「うん。ここまではない」
宿なら鍵があってしかるべきと二人は言う。
「鍵が要らない施設はどんなもの?」
「さて、あまりないような気はするが。なんだろうな。施療院か?」
「そうですね、他には神殿か……先ほどの石板の部屋まで進めば記録の内容で判断がつくかと思います」
「それなら途中の部屋は一旦飛ばしてあのあたりまで進むか?」
「いえ、一応端から見ていきましょう。万が一退路がふさがれたら困ります」
「わかった」
記録を解読すればわかることである、というのはなるほどもっともである。
しかし、外から資料らしきものがありそうだと確認した部屋にすぐに向かわずに、順に確認するべきとウィスタが言う。
確かに、突然壁が変形して敵性のなにかが道をふさぐようなことがあったら困ったことになるのは間違いない。
どちらにしても、今判断する役はウィスタだ。
エルエルたちは意見は言ってもウィスタが決めたことに従うべきだろう。
狩りでも誰かが勝手なことをすればみんなが危険になるということは往々にしてある。
今はそういう時だと理解して、一つ一つの部屋を確認していった。
結果から言えば何もなかったが、ギルドや役所の受付の内側のようだと二人が評する場所があったくらいで、目星をつけた部屋までたどり着いた。
「空きませんね。鍵がかかっているようです」
「位置的にはここで間違いないか?」
「まだ感覚が狂ってはいないので、おそらく。建物内部で空間歪曲されていないと思いますので」
「全体に魔法がかかっているようではない。過去はわからないけれど、少なくとも今は」
「ぶち抜くか?」
「通行証のようなものがあるか探してみませんか。先ほどの場所が怪しいと思うのですが」
「破壊は避けたほうがいいか?」
「まだ早い、というところです。防衛機構が動き出す可能性があります。他を回って手掛かりがなければ検討、ですね」
「わかった、そのつもりでいる。しかしそれだと俺の役目がないな」
「戦闘が起きたらあてにしますが、まだ前座ですからね」
グーフゥは出番がないことで気が逸っているようだ。我慢しているようだが、エルエルも気持ちはわかる。
冒険者に求められる役割分担というのはこういうことなのだろう。
エルエルはキノコが言っていたことを思い出した。
自分の役割の時は役目を果たしつつ指揮もする。
自分の役目でない時は出しゃばらない。前に立っている仲間の邪魔をするようではパーティで役割分担する意味がないだろう。
得意分野が似ている構成のパーティであれば、全員が動けるので手持無沙汰なことはなくなるだろう。
その代わり、できることの範囲が狭くなるわけである。
どちらも利点、欠点があり、それは表裏一体なのでどちらが正解とも言えないのだと教わったはず。
エルエルは教わったことを実践の場で実感できて、なんだか楽しくなった。
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