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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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51.エルエル、新発見

「地下に構造物を見つけたわ」

「ただの洞穴じゃあないということか」


 転移の起点が、施設であるという仮説が少し有力になった。

 もちろん、転移用の施設ではなく、転移魔法を身に着ける何らかの手段、魔導書の類が眠っていた遺跡などの可能性もある。


「それだけではなく、より深く、断層の外側にも」

「どういうことだ?関係があるのか?」


 グーフゥがウィスタに尋ねる。

 問題の場所は断層の隆起部分の内側にあるようなので、外側にあるものは関係ないと思われた。


「断層がどういうものかはわかる?」

「どういうこと?」


 エルエルはウィスタの言いたいことがわからず、聞き返した。

 すると、ウィスタは両掌を合わせて、指先をエルエルの方へ向けて前に突きだした。


「これが断層です」


 ウィスタはそう言って手のひらを合わせたまま、半分ほど上下にずらした。


「もともと平らな場所がなにかの理由でずれてしまうことでできると考えられています」

「うん?」

「掘ってみるとわかりますが、崖に現れている断面と、地下の土などの堆積状況が酷似しているんです。ちょうど、右手と左手の指の順番が同じように」


 なるほど。

 エルエルは自分の両手を見ながら話を聞いていた。

 手のひらを合わせたり、ずらしたりしてみる。


「たとえば、小指の部分に構造物があって、断層が出来たときに二つに分かれたかもしれないということ?」

「そうです。そして、それなら一方を調べれば、もう一方の情報があるかもしれません」

「内部構造がわかるかもしれないか。しかし、遺跡の調査なんて俺はできないぜ」

「オーガがいなければ多少は。壁の具合を確かめるだけでも有益ではないですか?」


 エルエルも遺跡なんてさっぱりだ。

 ウィスタに頼ることになる。

 だが。


「時間が大丈夫なら一度確認してから考えてもいいと思う」


 どちらにしろ手詰まりで、エルエルが集落に単独潜入して時間をかけて観察するよりは先に当たるべきに思えた。


「壁を抜けるかどうかは重要か。襲撃するときの選択肢が増えるからな」


 グーフゥは壁ごと敵を倒すことを考えているらしい。

 できるに越したことはないが、今回は情報の確認が優先なのでその機会があればいいなといったところだろうか。


 どちらかといえば進入する際にひそかに抜けることができるかの方が、エルエルは気になった。

 そのことも一緒に確認できるだろう。


「では全員で調べに行くか」


 と、言うことになった。







 地下は想像以上に整備されていた。

 大樹の根の隙間を縫うように潜っていくとエルエルの身長の二倍ほどの高さで、両手を広げて二人分くらいの幅の穴が伸びていた。

 そして、腰くらいまでの高さの土人形がわちゃわちゃと動いていた。

 ところどころに石の柱が伸びていて、その周辺は天井も地面も石化していた。


 重要なのは土人形を目にするまでその存在に気づかなかったことだ。

 ウィスタとエルエルは扱う魔法の系統が違うとはいえ、魔法の隠ぺい技術がしっかりしていることがわかる。

 一方で、問題の転移は隠ぺいがなされていない。

 これがやはり引っかかるところなのである。


 とはいえ、ひとまず今は問題の構造物の話だ。


「こっちが階段になっているから、気を付けて。壁は手をついても大丈夫な程度には固めていますので」

「わかった」


 魔法の明かりをともしてウィスタが先導する。

 段数を数えるのをやめてからしばらくして、目的の場所にたどり着いた。上下の移動距離は、なるほど、崖の高さに近いだろう。

 位置関係のつじつまは、ウィスタの言が正しいと示しているようだ。


「ほとんど掘り出している?」

「入口を探しました。窓と玄関らしき門と扉を確認したので、もともとは地上施設だったかと思います」


 エルエルはほとんど、と表現したが、見えている範囲は一角といったところだろう。

 想定通りならそもそも分割しているわけであるし。


「地上施設か。転移施設としてはどうだ?」

「どうとは?」

「転移を軍事用として使うなら地上からわからないように作りそうなもんだが」


 エルエルは少し考えてウィスタを見た。


「転移の魔力反応がわかりやすいので軍事用ではないでしょう」

「同意見。最近できたものなら意見を変えるけれど」


 転移の反応を認識できるということは、場所も探知されるということだ。実際にそうなっている。

 と、いうことは隠ぺいしてもさほど意味がない。

 数を駐屯させてしっかり守るのであれば、むしろ地上のほうがいいかもしれない。

 なぜなら、石の壁に囲まれた人間の街は地上にあるからだ。きっと、その方が多くの人間が集まるときには都合がいいという知恵を重ねてきているのだと思う。


 地下が防御が硬いとも限らない。土や石、いわゆる大地を操る魔法使いは少なくない。

 自然現象もある。

 断層が露出した原因が何であれ、実際に分割されてしまっているわけであるし。

 そもそも、隠密性を前提とした場合、防衛手段にも限度があるだろう。

 地下に住む人類は地下資源を求める者たちくらいだろうか。

 話に聞くドワーフたちのような。


「だが、ザッカーは実際に深刻な被害を受けている最中だが」

「施設がつくられた当時とは状況が違うでしょうからね。詳しくは内部を調べてからです」


 調べることになった。

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