49.エルエル、鍋を評価する
「深さはほぼ分かったわ」
「地上から見た位置もわかった」
一日探索とあなほりをした後の合流。
もっと探索を進めたいが、食料も休息も必要だ。
情報交換もできる。
不測の事態で帰還できなくなっていない、ということを共有することにも意味がある。
現在地は他から気付かれないように隠ぺいした仮拠点。
目立てないので窮屈そうなグーフゥを中心に、料理をしてもらいつつの情報交換。
「明日も確認して、同じ位置ならそこをめがけて掘り進みましょう」
「慎重に頼むぞ」
「もちろんです」
今日は鍋。
骨付き鳥肉に、残っていた獣肉、切り分けたキノコ、魔植物の触腕の皮をむいて刻んだもの、他採れた食べられる植物も投入。肉の生臭さを抑える香草があったのはよかった。塩気は干し肉から。
火が通ったら豆の発酵調味料を足して、最後に食べられる根をすりおろして完成。
「なんだこの白いドロッとしたもの」
「とろとろの根」
「とろとろの根?」
「元気になるし肌にいいと言って朱の森でもよく食べられていた。火を通さなくても食べられるが、こうして一緒にして食べてもいい。私は生が好きだけど、慣れていないと抵抗がある人がいると聞いていたので」
「お肌にいい! 素晴らしいですね!」
肌を気にするのはエルフも人間も同じらしい。
エルエルは年上のお姉さま方が肌の状態を整えることに木を使っていたことを思い出す。
長老と呼ばれるような歳になると気になるようになるらしい。
ほかのエルフはあまり気にしていなかった。
しかし、元気になるという効果は好まれており、皆よろこんで食べていた。
みんな元気であればなんでもできるので。
元気は大事。
取り分けて食べる。
「鍋は重いけれど、持ってくる価値があると認める」
「でしょう」
「鍋よりも料理した俺を褒めろよ」
食材を選んだのはほとんどエルエルである。
下処理も手伝ったし、切り分けるのも刻むのも手伝った。
味の仕上げがグーフゥだ。
仕上げは味に大きく影響する。
グーフゥの手柄は大きい。
「グーフゥえらい」
「グーフゥさん素敵です」
「律儀にほめんでいい」
「なんで」
「難しい年ごろなんですよ」
グーフゥがものすごく嫌そうな顔になった。
鍋で一緒に煮るというのはただ焼くのとは違った特徴がある。それは複数の食材の要素が互いに影響するということだ。
食べにくい食材を組み合わせで食べやすくすることもできれば、おいしい食材を台無しにすることもできる。
どうすればおいしくできるかは知識と経験が必要だろう。
あまり知らない食材を扱う際に活用できるのは立派なことだ。
それにしても。
「豆の発酵調味料もキノコとも合うし、美味しいと思う」
肉の臭み、植物の青臭さ、これを丸く包んで食べやすくしてくれている。
もちろんそのものの味もよい。
しょっぱさだけではない。
塩が悪いとは言わないが、より深みがある。
ほかにも合いそうな食材がありそうだが、手当たり次第に集めた食材をうまくまとめる役目も果たしてくれているように思う。
主張が決して弱いわけではないのに、ほかの食材の味を殺さず引き出してくれるようにも思う。
「魔植物が意外と食べやすいな」
「しなやかに動いて獲物をからめとるから」
「だから柔らかいんですね、とはなりませんけどね。こわ……」
魔植物は動物のように動くことが多い。
根を張っている場合はそれ以外の部分が動くわけである。
動くということは硬くないということでもある。
しなやかで強靭なので加工して弓の弦に使うこともある。
この度持ち帰ったものは、皮を剥いで火を通すことで面白い食感を楽しめる。
言ってみれば、ぷりぐにゅん。
これに、鍋の汁がしみこんで思いのほかおいしい。
もともと、あまり味を楽しむ食材ではないのだが。
嬉しい誤算だった。
ウィスタは難しい顔をしているが、これも美容にいいという食材だったと思う。
「そうなのですね!」
伝えると目の色が変わった。
だいたい森で採れるものは体にいいと言って食べられていたと思う。
逆に、何が体に良くないのか尋ねたときは、毒があるものは食べないようにしっかり覚えろと言われた覚えがあった。
それは、毒は体に良くないだろう。
そんなことは子供だったエルエルにもわかる。
そう思いながら毒の知識を教え込まれたものだ。
結局、三人で鍋いっぱい食べきった。
食べているときは気づかなかったが、鍋の大きさを改めて見ると結構な量に思える。
普段の倍くらいの量を食べたかもしれない。
その証拠に少しおなかが膨れて苦しい。
「ゆっくり休んでくれ。俺は昼の間に寝ていたからな」
夜、人間が行動するのは非効率だから、昼夜逆にするべきかなとエルエルは思った。
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