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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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47.エルエル、困る

 森の中に大きな断層があった。

 つまりは、崖だ。

 エルエル二十人分はあるだろう。

 それでも森に隠れて遠くからではわかりにくいのだから、このあたりの森の深さがわかるだろう。


 エルエルは木を伝って崖の上に登り、身を隠しながら崖沿いを進む。

 緑と青が視界を埋める中、エルエルの目には、わかりやすい目印が映っていた。


 オーガが通れる大きさの道。

 オークとオーガの拠点をつなぐ道が集まっている場所。

 そう、集まっている場所、である。

 複数のオーク集団を支配しているのだ。

 そしてそれだけわかりやすい。

 少なくともエルフの目でこの高さからなら見逃さない。


 道の集結点は崖下だった。

 崖に沿うように森が切り開かれた領域がある。

 そこでオーガが猪をかじっていた。

 生で。


 狭いなと思う。

 オーガが多数住むには切り開かれた空間は狭い。

 ゴブリンくらいなら何十と住むことができるかもしれないが、オーガとゴブリンでは身長で五倍は違う。体積なら百二十五倍となるか。

 オーク複数集団と渡り合う規模だろうか。

 毎日一体転移で使い捨てられる規模だろうか。


 ということであれば、上から見えない位置にいる、か。


 エルエルは崖から木に飛び移り、さらに木から木に。オーガの拠点を別の視点から観察した。

 崖に沿って、屋根を設置してある。

 細工の規模からして、オークの手のものと思われる。少なくともオーガの手によるものではないだろう。よほど細かい細工をするのが趣味のオーガがいなければ。

 これがなかなかに視認の邪魔をしてくれる。


 あった。


 木の屋根だけでなく、木の柵まで作られた場所。

 その奥に大きな穴があった。

 おそらく扉の代わりなのではないかと思われる丸太を束ねた蓋が雑に横に立てかけられているのが見える。

 隠そうとしていたが、だんだん面倒になったのではないだろうか。

 蓋の大きさはオーガであっても重そうだ。

 それは、その穴がそれだけ大きいからということでもある。


 その穴は、オーガでも立って出入りできるような大きさの穴だった。

 おそらくはこの穴の奥。

 崖に掘った穴の奥にオーガの集落があるのだろう。




 大変よくない。




 森の中ならよかったが、地面の中はエルエルの守備範囲外であった。

 ひとまず近づいてみたが時折オーガが出入りしているため奥に行くのは難しそうだ。

 とすると、夜だろうか。


 穴の中で暮らしている以上、オーガたちも夜目が効くだろう。

 だが夜寝るなら出入りは少なくなって忍び込めるかもしれない。

 どちらにしても、一旦報告に戻るべきだろう。


 エルエルがそう判断した、ちょうどそのとき。


「地下か」


 穴があるあたりの斜め下奥から、転移位置への魔力が発信されたのがわかった。

 魔力は強力な魔力を含んでいない物質なら貫通する。

 地下を意識していないと気づかなかったかもしれない。

 運がよかったと言えるだろう。


 遠くだと近く範囲に当たりにくく、近くだと地下を通っている。

 狙っているのかわからないが、なかなかの隠ぺい効果だとエルエルは思う。


 だがこれでほぼ確定だろう。

 敵は穴の奥にあり。

 報告に戻ろう。








「厄介なことになりましたね」


 ウィスタが頬に手を当てて首をかしげている。


「ダンジョンアタックの準備はしてきていません」

「そもそも、正面から攻めこんでも時間を稼がれて逃げられるだろうよ」

「気づかれないように忍び込むか、外に出てくるのを待つか」


 相手は転移を使う。

 それが、経路が限られる地下にいる。


 その時点で鉄壁だ。

 仮に、追い込んだとしても転移で逃げることができるだろう。

 土なのに石の壁よりも強固な守りである。

 わかってやっているのか、偶然か。

 整備されている状況からすると、わかってやっていると考えるべきだろう。


「一人で忍び込んでみようか」

「森とは勝手が違いますよ? 経験はありますか?」

「ない」


 守られている洞穴に潜ったことはない。

 オーガを斬る要員であるグーフゥも専門ではない。知識要員のウィスタはどうだろう。


「魔法を使えばある程度。ですが」

「魔力が足りるかもわからん、か。内部の規模も不明なんだ。外から構造を調べることはできないか?」

「可能ですが、内部に魔法を扱うものがいれば気付くでしょう」

「ダメだな」

「ダメです」

「うん」


 地中を探るに魔法を使わない方法は難しい。

 少なくとも、エルエルはそのような手法に熟達していない。

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