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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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45/67

45.エルエル、なぜお魚はおいしいのか

「これは、想定の中でも特にひどい」


 エルエルは木登りしていた。

 見えるのは木材の防柵で囲まれた森の中の、砦、といっていいだろう。

 内部には百を超える動くものがいた。大きな獣を解体していたり、武器をふるっていたり、なにやら作業している者もいる。

 周囲の木よりも高い見張り台が組み上げられていたが、上からでは茂った木々の緑しか見えないと思う。

 空からの敵を見張るのなら役に立ちそうだ。

 柵の周辺は払って木を伝って飛び込めないようにきちんと整備してある。同時に視界も通りやすくなっている。

 樹木を刈り払い、自分たちの領域とするこの防衛の仕方は人間の発想と似ている。


 しかしそこは人間の拠点ではなかった。


 オークである。


 オークは小鬼とも呼ばれるゴブリンと比べて人間と同じくらいか一回り大きい程度の体格で、鼻が上を向いていて正面から穴が見える。

 矢を打ち込みやすそうだ。

 豚鬼という別称はこの特徴によるものだろう。だが農場で見た豚のほうが、かわいいし美味しそうだ。

 オークは似ても焼いても食えないという言葉が似合う見た目をしている。

 エルエルの感覚からすると、オークは生理的に受け付けないのだが。人間を食うことを考えるよりもなお気持ちが悪い。

 まあ食べないからいいか。エルエルは離れた場所に待機している二人のもとへ戻る。








 オークの拠点があるということは知っていたし、ゴブリンと接触があることも分かっていた。

 さらに。


「オークの拠点の北側に、巨大な門があってオーガがいた」

「やはり居たか」

「大きな門というのは?」

「オーガが出入りするのに問題ない大きさ」


 オーガはエルエルの三倍程度の身長で、オークと比べても二倍以上だ。

 オークの拠点につける門としては大きすぎる。オーガと敵対しているのなら。

 逆にオーガが通るには小さいほうが、防衛としては有効なはずである。

 少なくとも門を改修するか、はじめからオークとオーガが組んでいたことになる。


「オーガはオークを食うはずなんだがな」

「力で従えているのかもしれませんね。いえ、衝突があったならさすがに余波があったはず……?」

「ザッカーが見逃したんじゃないかね?」

「どちらにしても、壁にするつもりだった連中がみんな組んだのを見過ごしてるのは、戦略そのものが悪かったのか、運用が悪かったのか、見直すように偉い人に伝えるべき」

「うっ。それはそうですね。今回の報告の時に」


 ザッカーのB級冒険者というのは運用に関わっている立場であるのだろう。

 ウィスタは苦い草を口にした時のような顔でうなずいた。


「朗報もある。オーガが出入りしているということは、道がわかりやすいということ」

「ああ、森の破壊者か」

「破壊痕を追うのですね」

「オーガが通れる道になっていた。見たところでは、折れた木は転がってはいなかった。オークが整備しているのかも」

「門よりよほど手間暇かかっていますよそれは」


 道と言っても人間が作り上げた石を敷いた街道とは比べるべくもない、緑を排除して踏み固めた程度のものだ。

 エルエルとしてはそれほど大変な物ではないと思ったのだが。


「それはきっとエルフ特有の感覚だな」

「森の侵食を止めて区域を維持するのは大変な労力が必要なのですよ」

「オークでも?」

「あー、それはわからんが」

「オークではないですからね……」


 謎が一つ残ったが、重要なことではない。

 道ができるほど行き来しているのか、それほどの労力を払って維持しているのか、どちらにしてもオークとオーガは密接に関わっているということは間違いない。


「そろそろ近づいてきたのなら、転移の魔力経路を見極められないか」

「それに集中すれば捉えられるかもしれない。でもその時間でもっと近づいたほうが早いと思う」

「そうですね。やりますか?」

「そういうことならやめておこう」


 ザッカーへ報告し、今日の野営場所に移動する。

 人食い植物が繁茂していたのでちょうどよい。知っていれば近づかないし知らなければオークも食われてしまう。


「今日は魚を食べよう」

「水場があったのか」

「オークやオーガが使う水場じゃないですよね」

「違うと思う」


 森の中にも水場はある。

 水場があれば魚が採れる。

 肉が多くなっていた最近の食事に一石を投じるお魚さん。

 お魚さんはなぜおいしいのか。

 エルフや人間がお魚がおいしく食べられるように生まれたのか。

 エルフや人間にお魚がおいしく食べられるように生まれたのか。


「ウィスタ、肉焼き用調味料は、魚にも合うと思うか?」

「!」

「どうでしょうね。味が濃すぎるのでは?」

「!?」

「豆の発酵油はどうだ?」

「!!」

「使いすぎなければ、合うと思います。でも塩焼きがおいしいかなと」

「それはそうだ」


 エルエルは新たな試みにも興味があったが、確実においしい塩焼きも捨て難いのでいいかなと思った。



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