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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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44.エルエル、集める

 森には様々な存在が息づいている。


 なかでも狩りをする獣は縄張りを主張するのでわかりやすい。

 自ら示威してくれるのだ。

 つがいを求めて鳴く鳥や虫。

 種や花粉の運び手を求め咲き誇り実をつける植物。

 無数の恵みが複雑に絡み合って生きている。


 そんな中から探し物をしたり、行くべき道を選ぶことは、人間にとっては難しいことらしい。


「森で暮らせば?」

「人間は街で暮らすものだ」


 つまるところそれがどれだけ身近で、普段気にかけていることか、だとエルエルは思う。


 森に広く生息している、耳が長くて音に敏感な小型の草食獣を三体狩って、ウィスタに皮を剥ぐ魔法をかけてもらった。すぐには食べないので血を全部流して土の下に送り込む。

 匂いも風でまとめて地面の下へ流す。

 風と土はそれほど仲良くないが、頼めば協力してくれるくらいには仲が悪いわけでもない。

 風は変わったことをするのが好きだし、土は滋養をため込むのが好きなので受け入れてくれやすいというのはあるかもしれない。


 例えば、糞を見れば獣がいること、種類などがわかる。

 グーフゥやウィスタは、理屈はわかるが、見つけても見分けがつかないという。

 足跡を見れば行動もわかる。

 そもそも足跡がわからないという。


 おそらく、どこを見ればいいのかわからないということがひとつ。

 そして、異常でない状態が想像できていないというのがひとつ。


 知識と慣れである。


 逆にエルエルたちの痕跡も残る。

 エルエルがごまかしているが、相手がエルフなら気付くだろう。

 完全に痕跡を消そうとするときれいすぎて逆に目立つのだ。

 ゴブリンやオークがその域に居るかどうかはわからない。

 だが、大柄で重い鎧をつけているグーフゥ。

 身体能力で二人に劣るウィスタ。

 この二人を引率する以上、限度がある。

 次善を選ぶしかないのだ。

 念のため、ゴブリンの狩場を迂回して、その分時間もかかるが発覚の危険を避けていた。


 残る痕跡の水準のどのあたりに線を引くかは、森に親しんでいないグーフゥやウィスタでは判断できない。

 この点については森に集落をつくってそれなりの期間、縄張りを守らなければ身につかないかもしれない。

 暮らせばいいというのはそういうことで、しかしグーフゥは一言で切って捨てた。


 人間は、街で暮らす。

 そういう選択をした種族で、実際にそれで成功していると言える。

 自分たちに有利な領域を作ってそこで暮らすというのは理に適っているし、様々な種族が同じ選択をしている。エルフの集落も同じことだ。

 人間はその規模が大きい。

 あえて隙だらけな平地に出て、石で壁を立てるなんて、実にスケールが大きい。


 一方で、森の恵みを切り捨てているわけでもない。

 効果の低い薬草を集めたり、燃料や素材として木を伐採したり。

 キノコの故郷のように、エルフの森に近い場所で、石壁もなく暮らしている者もいるという。

 人間と共に暮らす猫人が、森での活動に適した素養があったりもする。

 種族全体でできることの幅が広いと言えるかもしれない。

 あるいはそれが成功の理由?


 そんな話をしながら、エルエルは今日の野営地を選んだ。


「オークの領域が近くなってる。ゴブリンと行き来している様子もあるから距離を取った。その分迂回した。間に別の獣の縄張りを挟んだから、バレる心配はあまりない。私がいる間は火を焚いてもいい。しゃべってもいい」

「視界が通らないが、大丈夫か?」

「うん。火を炊くならそのほうがいい。私とウィスタの魔法で対策もすればだいたい大丈夫。グーフゥは体調を万全に維持して」

「あまりすることがないのもな」

「そうは言っても、エルエルさんの独壇場でしょう。料理で貢献しましょう」

「料理か……」


 大樹の陰に隠れて野営をする。天幕はない。風雨の心配はなく、火を焚いても後始末は土の下、途中に出る煙もまとめて土の下。

 虫や蛇が出るが気を付ける。

 そういうことができるから、一人で旅ができるのだ。

 そういうことができるから、今回の件も引き受けた。


 ところで。


「今日は何を作ってくれる?」

「焼き肉用調味料をつけて焼くか?」

「おいしいですが、そればかりだとちょっと物足りませんね。エルエルさん、野草の収穫はどうでした?」

「鍋にするの? キノコ追加で探してこようか?」

「なら、肉を刻んでおこう」


 ウィスタは鍋を持ってきていた。

 重いしかさばるが調理には便利だ。

 重いしかさばるが。

 金属の容器は代用しにくいのであるとできることが増える。

 重いしかさばるが。


 そんなウィスタだけでなく、グーフゥも料理が上手いらしい。

 騎士団でも振る舞うことがあるそうだ。

 肉を焼くことに一家言あると言い、調味料を取り出して塗りながら焼いた串焼きはなるほど美味かった。

 調味料がよいということもあるが、使い方を間違えていないのだから十分だろう。


 エルエルは手を出さないことにしていた。

 やることがないことで鬱憤がたまっている様子だからだ。

 だが、食材の調達まではエルエルの役目。

 この位置関係なら多少欲張ってもオークたちに気づかれはしないだろう。大丈夫。

 エルエルは手早く食べられそうなものを集めるのだった。

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