42.エルエル、ゴブリンを見る
朱の森のエルエル、巡回騎士団副団長グーフゥ、剣の風の魔法使いウィスタ。
それぞれ案内要員、武力要員、知識要員である。
この三人で、ゴブリンとオークが住む森を抜けて、オーガの領域にたどり着き、オーガの集落に潜入して転移について探り、わかればこれを排除する。
それができる構成か、と言うと最低限である。
エルエルとウィスタは戦力的にはオーガ一体と同程度であるとみなされている。切り札を使えば複数倒せるが、使わなければ一体も倒せないという見込みだ。
グーフゥが主力である。
立場としてもグーフゥがこの即席パーティのリーダーだ。
巡回騎士団の第二位というのは国内でも屈指の戦士であることも示している。
一位の団長は国内に散っていた団員を招集しつつザッカーに向かっている。巡回騎士団は、普段は部隊ごとに分散して動いており、今回は近いところからいくつかの部隊が集まる予定だった。ここからさらに招集がかかり、緊急で動ける部隊が集まることになった。これをまとめる役目もあるので、現状グーフゥがザッカー近隣で動ける最高戦力である。
彼が参加しているということは、エルエルたちのパーティに相応の成果が求められているということだ。
そして。
「ゴブリンの集落にオークがいたか」
早速成果が出た。
街道の、オーガ遭遇地点から、エルエルが魔力の流れを感じた方向へ進む。
驚いたことに、人間にとっては森の中を方角を見失わずに移動するのは難しいらしい。
キノコが森で迷う様子はなかったので、そんな大変なことだとは思っていなかった。
狩人の経験によるものだったようだ。
それならキノコの能力は相当に重宝されると思うのだが。
話を戻そう。
ザッカーを通るホニ街道の北方の森には、ゴブリン、オーク、オーガの順に縄張りがあることがわかっているが、より危険な魔物への壁として生かしているという状況だったはずだ。
つまり、ゴブリンはオークへの壁、オークはオーガへの壁、オーガはより強い森の奥の魔物への壁ということだ。
森に棲む魔物は、より森の深い場所に住みたいという欲求があるようで、結果的に強い魔物ほど森の奥に集まる傾向があり、その習性を利用した緩衝防壁であった。
「だが、こいつらがつるむようじゃ役目を果たせてないな」
そもそもゴブリンは他の強力な魔物の手下になることはあるらしい。
過去には強大なドラゴンに従ったり、オークに従ったり、オーガに従ったり、知恵がある魔物には大体従った例があるようだ。エルフの記憶のうちのことだから間違いないだろう。
当時は餌兼奴隷のような扱いであったようだ。
ただ、エルエルが聞く限り、今回はそう言った前兆がなかったはずだ。
ゴブリンを力で従えようとすれば、逃げるゴブリンが出てくる。
逃げる方向は襲ってくる魔物と反対側、人間の領域になる。
なのでゴブリンが増えた場合、前兆ととらえ対応を行うというのがザッカーの街の戦略だった。
だが、今回はそういた前兆がなかった、とすると。
「ゴブリンとオークの同盟と見ていいでしょう。ゴブリンに強力な統率個体が生まれましたかね」
ゴブリンは、例えば人間のように、個体差が大きくなる種族だ。
普通の個体は人間の大人が囲んで棒で殴れば倒せるていどだが、生き延びて知恵と力を得た個体は体も屈強になり、オークやオーガと渡り合える個体も現れることがあるという。
人間にB級冒険者や騎士が生まれるようにである。
「そういえば大きなゴブリンがいた。杖を持っている個体も。この集落に二百ほど、うち小型が百五十、オークが二十、その他三十ほどだろう」
偵察に出たのはもちろんエルエル。単独だ。
深き森のマントを込みであれば、少々鋭い個体にも気づかれない自信があった。
ほかの二人はそれなりに隠形はできるようだが、あくまでそれなりだ。
かくれんぼをしたら絶対に負けないだろうというくらいだ。もちろん深き森のマント抜きで。むしろ、二人が深き森のマントを使ってエルエルが使わなくても勝てると思う。
その程度に差があるので、偵察はエルエル単独が一番いい。役割分担である。
だが報告を受けて判断をするのはリーダーであるグーフゥ。それも知識を期待されて参加しているウィスタ、エルフの知見を期待されるエルエル、三人で検討してからだ。
そして、今、ザッカーがヤバいという結論で一致した。
「遠話はできるか?」
「もちろんです」
遠話。遠くの相手と会話する魔法だという。
相手の制限が厳しいらしく、ウィスタは剣の風の仲間の一部と会話できるらしい。
「ウィスタよ。ええ、全員無事。ゴブリンの領域の偵察中。一つの集落でオークとゴブリンが手を結んでいるわ。少なくともゴブリンの強個体が三十。オークが二十を確認。ほかの集落は不明。オーガは未確認なのでさらに北上します。うん。了解。伝えます。グーフゥさん、騎士団の魔法使いから遠話が来ます」
「わかった。……俺だ。ああ。そうだ。うん? 検討する。以上か? ああ。そっちもな」
エルエルは、遠話の魔法を見て、これは気づかれないだろうかと思った。
転移ほどではない。恐らく感知されにくいように工夫はしてある。だが、敏感なら気付くかもしれない。ゴブリンやオークの魔法使いが敏感かどうかは、聞いたこともないのでわからないが。
「エルエル、相変わらず転移は一日一回程度起きているようだ。この集落は起点ではないか一日様子を見てはどうかと向こうから提案があったがどうだ?」
「ほかの集落でも一日ずつ様子を見るのであれば時間を取られることになるが。少なくとも三つはある。多分六つ以上。遠くにもっとあるかも」
「それなら先に進むべきか。転移の移動の途中の魔力はわからないのか?」
「移動の途中? 転送元と転送先を結ぶ形で魔力が動くとは思う。ただ、ある程度近くを通らないとわからないとも思う」
「オーガが出現した範囲はかなり広いので、転送元から直線で結ぶとしても感知できる範囲にその線が入るかどうかは向こう次第、こちらにしてみれば運次第です」
弓で的を狙ったとして、その外れ方が大きいという状況を考えてみてほしい。
その状態で射手と的の間に小石を浮かべて、矢が小石に当たるかどうか、という話だ。
もちろん射手は小石を狙っていない。
「まあ転移されてるのはオーガなんだから、ここは他に任せよう」
「わかった」
「了解です」
森歩きは続く。
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