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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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37.エルエル、考える

「ただ、パーティを組むのに一番大事なのは、日程、そして目標と方針が合うかどうかですね。特に日程は仲間の都合に合わせなければいけませんから、自由に動けなくなります。クーニャちゃんの事情はご存じですか?」


 ルティが尋ねると、エルエルは心当たりがあったので答えた。


「猫の日?」

「はい。ほかには蜥蜴人は寒い日は活動が難しいとか、ご実家の都合で一時離脱する時期があるとかですね。そうでなくとも、仲間の事情を互いに理解していなければ長く続きません」

「それはそうだろうな」


 違う立場の者が一緒に行動するなら、各々が事情を持っているのだろう。あるいは活動中に発生することもあるだろう。怪我をするとか。


「活動できない期間は収入に直結しますから、それぞれが違う時期に動けなかったら仕事が一つもできません」

「能力の相性がよくても、それではパーティとしては失敗か」

「はい。そして目標、方針ですが」


 中級以上、ある程度稼げるようになった辺りで問題に行き当たりやすいらしい。

 より上を目指すか、このまま引退まで安定してお金を貯めるか。

 人生設計を考えるようになると、意見が分かれやすいという。

 実際にもっと上を目指せる余力があるかというのは、それぞれの実感が違うことがあるようで。

 ここらが限界、もう充分などと感じる者と、もっと行ける、と感じる者で意見が分かれた場合、容易にパーティは瓦解するのだそうだ。


「エルエルさんは五十年という期間の活動を予定されているということで、その期間をどうやって過ごすのかを考えてみてはどうでしょうか。外界見聞使というお役目もあるとか」

「うん。人間の世界を見て朱の森の皆に教える」

「でしたら、どういうものを見聞きしたいか、考えてみては? 地理、国際情勢、技術、文化、それぞれ適した活動場所があると思いますよ」


 ルティに言われてエルエルは考えてみた。

 まず思いつくのは食べ物だろう。

 だってエルフにはない価値観の産物だ。重点的に見聞する価値は大いにある。

 それから、いろんな場所に足を運びたいところだ。

 人間の支配する領域はザッカー周辺だけではない。

 ザッカーは国の中の一都市で、ザッカーがある国もいくつかある中の一つなのだと聞いている。

 狭い範囲だけでは見聞したとは言えまい。


「でしたら、いろいろな場所を旅するパーティに参加するべきでしょうね。ご自分で主宰するのも手です。エルエルさんのお役目を優先するならば」

「ただ、もう少し人間の世界に慣れてからでも遅くはないだろう。剣の風に参加して十年、あるいは別のパーティで二十年か、冒険者の生活を体験するのも経験になるとは思うぜ。途中で予定変更してもいいしな」

「なるほど」


 旅をするということが目的のパーティを組むというのはいい案だと思った。

 ひとところにずっといるつもりはない。

 ただ、まだザッカーの街すら、ろくに見聞していない。

 食べ物はその片鱗を見ただけだし、街もお風呂と宿くらい。人々の生活も、防衛の様子もあまり見ていない。ずっとバタバタしていたのだ。

 人間を学びながら、ザッカーを見聞するというのは当面の目標としては妥当に思えた。


「そういう意味では、剣の風はいつも忙しいパーティです。いろいろなことに関われますが、余暇で市街巡りをする、というのは難しいかもしれません。そこは交渉でしょうね」

「そうなのか」

「ザッカーでも特に精力的なパーティだな。もともとB級以上は数も限られるし忙しくなるんじゃないか」

「そうですね、難しい仕事は長期にわたりがちでもありますし。実際の様子は直接聞いてみるのがいいと思いますよ」

「猫人とパーティを組めば、時々時間ができる……でも一緒に出歩いたりできない。うーん、いや」


 それではクーニャは寝るか仕事かになってしまう。

 クーニャも寝る以外に、例えば遊ぶ時間とか。あるべきだろう。

 するとさらに休みが増える。

 なるほど。


「休みが多いということは、それだけ稼がないといけないがな」


 猫人はもしかすると人間の社会に向いていないのでは。

 エルフの森なら馴染めそうな気がする。

 クーニャは森で結構動けていた。

 十年もあればエルフと遜色ないくらいになりそうに思う。

 ただ、あの平穏な時間に耐えられるかという問題はある。

 エルエルが外の世界を見たくなったくらいだ。外の世界の人たちはどう感じるだろうか。


「パーティのみんなの都合を考えるというのが大変だということはわかった」

「それだけじゃないぜ。あまり働いていないのに稼いでいるやつを、ほかの連中がどういう目でみるか」

「それはケイさんじゃないですか」

「どういうこと?」


 ケイは狩人の技術で、正面からは倒せないような獲物を狩ってお金にしているらしい。

 イノブタとか。

 戦い慣れていなければ、猪を正面から受け止めようとして大怪我や死ぬような目に遭うことがあるかもしれない。

 だが、狩人は知識と技術で比較的安全に狩ることができる。

 ふつうのE級では稼げない額を得ていて、やっかまれたことがあるらしい。

 キノコや植物の知識もある。

 その一方で、獲物を運ぶ以外に役に立たない人手を増やすことも気が進まなかった。素人に教えて手伝える程度に育てるという選択肢もあったが、キノコは狩人として十年、地元で学んでおり、その経験からどれだけ絞っても一年や二年は時間がかかると考えた。

 その間、教えている相手をキノコが養うようなものだ。


「そうまでしても実際のところ、俺にとっては収入が減るだけなんだよ」


 育ててもキノコにとってはうまみがないという。

 技術を身に着けた分、報酬も荷物運びとして雇うよりも増やさなければならない。

 キノコの取り分は減るのだ。

 もっと稼ぐなら狩人の流儀では足りない。冒険者の流儀を身に着け、仲間を探す必要がある。

 その時、キノコに劣る狩人もどきがいても何の足しにもならない。同じ時間で剣でも振っていたほうがマシ。


「キノコは冒険者ではなく、狩人をやっているままなのだな」

「そういうことだ。特化したパーティってやつだな。一人だが」

「なるほど」


 参考になった。

 どちらにしても、自分の目標をはっきりさせなければなるまい。


「普通は見習いで考えることじゃないんですけどね」

「能力が見習いのものではない新人というくくりなら普通だろ」



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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほどキノコは狩人スタイルを育てるにはコストが割に合わないけど、 新人冒険者に教育する分には手間とギルドから貰える報酬が割に合うのか
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