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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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36.エルエル、相談する

 持ち帰ったバタークッキーは、クーニャと分けて食べた。

 はじめエルエルは食べるつもりはなかったのだが、クーニャが一緒に食べようと言ったので。

 宿で食べてもとてもおいしかった。



 さて一日休みをもらった。

 旅の疲れをいやせと言うことらしい。

 エルエルはザッカーの街についてからずっとなんだかんだとあったので休めと言われたのは初めてだ。

 宿場町では徹夜後で実質待機だったし。

 ザッカーの街を見て回ろうかとも思ったが、現在は非常時である。武装した見慣れないものが領域で意味もなくうろうろしているのはあまりよくないだろうとやめておいた。


 それに、エルエルは相談したいことがあった。

 しかし、クーニャは自分の手に負えないと言い、また、猫の日にするから寝るにゃということで、キノコに。

 するとキノコはエルエルを冒険者ギルドに連れてきて、ルティに話を繋げた。


 というわけで連日の会議室。

 エルエルと、キノコと、ルティ。

 お茶は出たがお茶菓子は出ず。


「忙しいだろうに、すまないな」

「いえ、偉い人は忙しいですけど、私たちはそうでもないんですよ。今日のところはね」

「ありがとう」


 キノコがルティに気を使っているのでエルエルもお礼を言っておく。

 エルエルのために時間を取ってもらったのだから。


「いえいえ、冒険者の皆さんの相談に乗るのも私たちの仕事ですからね。遠慮しないでください。それで、どんな相談ですか?」


 ニコニコしているルティ。エルエルは安心して話を切り出した。


「剣の風に勧誘されたので持ち帰って検討すると返事をした」

「ええっ!?」

「でも、検討するだけの材料がないから相談したかった」


 エルエルは見習いで、冒険者ギルドに登録したばかりである。それどころか、人間の社会にも来たばかりだ。

 冒険者ギルドのことを学んでいこうという段階なのである。


「ギルドの規則からすると、見習いを加入させるのはギルドの認可が必要です。が、剣の風でしたら問題なく認可は下りるでしょう」

「どういう基準?」

「ギルドからの信用ですね。見習いをだましてよくないことに使ったりはしないだろうという。日ごろの態度と実績によるものです」

「囮にしたり、不当な扱いをしたりする連中がいるんだ」

「不当とは?」

「知識がないのを利用して都合のいいように嘘を教え込んで利用することですね。ザッカーのギルドではこれを問題視して、今の見習いの制度が出来ました」


 なるほど。

 エルエルは頷いた。

 未熟な冒険者が亡くなることはあまり重要視されていないという話だったが、そうでもないのか。

 ギルド側の注意や方針に従わない者までは面倒見きれないので自己責任ということかもしれない。


「斥候が離脱した話はどうだった?」

「あの件は本人に調査の上、問題なかったと」


 キノコの質問に、ルティが答え、それからエルエルに向き直る。


「剣の風のメンバーの一人が後遺症の残る怪我で引退したことがあるんです。死亡していた場合は疑問視される場合がありますが、ご本人から話をうかがえたので。無理に危険なことをさせられたとかはなかったことが確認できています。

 冒険者全体でもそうですが、斥候はもともと特に危険で技量が必要な役割ですから、危険を0にすることはできません。万に一つが当たってしまったようなものとして割り切る部分です」

「狩人だって万に一つはあるからな」


 狩りは技術や知識が不足していれば万に一つどころではなく危険である。

 エルエルもそれは知っているので、似たようなことをすることもあるらしい冒険者もそうなのだろうと思った。


「それに、加入したとしても、何度か抜き打ちで確認しますから、手放しで認可するわけではありません。ザッカーの冒険者の流儀はちゃんと覚えてもらえます」

「わかった。それと、パーティというものについてもう少し知りたい」

「え」


 ルティがキノコを見る。


「二日であれがあってそれから仕事してたんだ」

「ああ、はい。そうですね。では簡単なところから」



 ルティによると。

 パーティとは、一緒に仕事をする仲間である。

 四人から六人程度が理想とされている。

 それより多くなると、冒険者の長所である動きやすさが損なわれるのだという。


 構成員を固定することで意思統一と疎通の円滑化という大きな利点があるため、一般にパーティという場合は、メンバー固定のパーティを指す。


 方向性は大まかに二つ。

 長所をより手厚くする場合と、役割分担してパーティ全体でできることを増やし、仕事の幅を広げる場合である。


 冒険者の仕事は幅広い。

 石の壁の外での活動全般に関わるという。

 その幅広い仕事をどう受け取るかだ。

 一部の仕事に特化して生活できるなら、専門パーティが成立しやすい。しかし、それができる場所は限られる。

 多くの場所では、冒険者とはなんでも屋として認識されている。

 人手が足りないか、仕事が足りないか。どちらにしても選ぶ余裕がないことが多いのだ。

 誰でもできるような仕事は新人に回さないといけないし報酬も少ない。

 新人が成長しなければ新しい戦力は増えない。

 そして一人前以上の冒険者には、できることの手広さが要求されやすいのである。


「例えば俺とエルエルはできることが似ている。だから少人数のパーティを組む場合、どちらか一方でいい。魔法使いに専念させる前提だと違ってくるだろうが」

「私は人間のことをよく知らない」

「それは別の仲間が人間なら補える」

「…………」

「それでも、活動範囲を森や田舎の村なんかを中心にするなら組む意味がでる。手分けできることができることを増やすからだ。これは戦いに出る時に戦士が複数連れ立って行くようなもんだ」


 その分、それ以外でできることが狭まる。

 とはいえ、特別な技術を持っている人間のほうが少ないため、学ぶことを手分けするという面もあるようだ。


「拠点にする場所によってパーティ構成に特徴があったりするんですよ」


 場所ごとに求められる技術に偏りが出るのだろう。


「そのうえで性格が合わなかったり、巡りあわせが悪くて解散したり入れ替わったりすることはよくあることです。パーティを組むなら、喧嘩しても仲直りできる程度の交流能力は持っていてもらいたいですね」

「ない人がいるの?」

「残念ながら」


 いるらしい。

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