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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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30.エルエル、魔法談義する

「そうですね、初級の魔法使いはお金を稼ぎにくくなりました」


 ザッカーへ向かう街道上。

 エルエルたち一行に、剣の風の魔法使いの女性、ウィスタが同行していた。

 アイレンの銀級対策だ。

 剣の風は、騎獣を休めるためもあり、一日宿場町に滞在する予定だった。

 その時間を利用して、あの四人組に接触を試みるということだ。


 宿場町のザッカー方面の門衛に確認したところ、エルエルたちが出発した時点では、彼らはザッカー方面に出発していないようで、宿場町内に居るか、宿場町に入っていないかということになる。

 あとの調査は剣の風に任せることになり、もしエルエルたちが街の外で遭遇した時のことを考えて、ウィスタをつけてくれたのだ。


 剣の風の戦力が低下するが、滞在する顔見知りのザッカーの冒険者の手を借りるそうだ。

 明日以降は剣の風も騎獣で帰還するので数日でウィスタは回収できる見込みである。


 そんなわけで、これまで聞けなかったような話を魔法使いであるウィスタに尋ねているのであた。

 なお、じゃんけんだそうだ、人選は。

 ほかの人なら違う話題になっていただろう。





「ですが魔法学校を開校し、広く素養があるものを集めるようになったのです」

「魔法学校?」

「一定以上の素養を持った人を勧誘して、魔法を教える学校です。修得スクロールで三つ以上の魔法を覚え、使いこなしている方が対象なのですよ」

「それじゃあケイも対象にゃ?」

「そういえばスクロール屋でそんな話を聞いたかな。断ったけど」

「あら、どうしてでしょう?」

「財力がない。王都でも魔法都市でも生活できない」


 魔法学校というのに通うにはお金がかかるらしい。それも結構な。


「入学金と保証金だけで授業料は無料ですのに」

「生活費が稼げないから無理」


 さらに、学ぶことに集中するため、時間を取られるので稼ぐのも難しい。


「初歩の魔法を使うのに平均十年以上の修業が必要だったかつてと違い、修得スクロールで覚えてから感覚と座学を並行して三年程度で、自身でスクロールを作れる程度に教育課程が進むようになっています。全体でかかる費用はとても下がって門戸も広くなっているのですが」

「ウィスタさんも冒険者で一から上がってったならわかるでしょ」

「まあ、そうなのですが」


 人間の魔法の修得には本来お金と時間がかかるらしい。

 研究にはさらに。青天井。

 魔法の研究の必要性は認められているものの、実戦で使うだけならスクロールで覚えればよく、状況の変化で魔法使い業界が抱える問題も変わってきているらしい。


「猫人には関係ない話にゃ」

「猫人も覚えられますよ」

「えっ、そうなのかにゃ?」


 獣人は人間のものとは別の魔法を使うと言われている。

 さらに、本能的に身体能力を強化する魔法を使っているという。


「だから魔力はあるわけなので。伝統的な獣人の方には人間の魔法を覚えることを嫌う方もいらっしゃいますが、魔法学校に通う方もいますよ。私の友人にもいます」

「エルフは?」

「いらっしゃいます」

「人間は万能だな」


 人間は万能、というのは人間の種族特徴であり、場合によっては揶揄するときにも使われる。

 人族すべてと交配可能で、とがった能力がなく、それなのにその勢力を広げ続けている。

 魔法についてもそうなのか、それともすべての魔法はいずれの種族も使えるのか。

 エルフの魔法はその形式上、可能ではあると思う。問われるのは種族より個人の適性だろう。

 ほかの種族が秘匿している魔法については、まあわからない。


「なんの。エルフの魔法にはまだまだ敵わないようですけどね」

「使い手によるのでは?」

「研鑽に使える時間が違いますから」


 その視点で言えば人間は不利に違いない。

 寿命が違う。

 エルエルは人間と変わらないほどしか生きていないけれど。


「その修得スクロール? で時間を縮めたように、魔法学校で環境を変えたように、新たな取り組みをしていればいずれ逆転するのでは」


 いずれ人間がエルフを超える、かもしれない、という話は朱の森の長老からきいたことがある。

 エルエルは、お役目に出発する前に予習していた勢力範囲を考えればすでに超えているように思ったものだが、技術によって勢力を増すのが人間の力なら、魔法に関してもそうなるかもしれないなと思った。


「いずれ、の話ですね。それはそうと、エルエルちゃんにお願いがあるのですが」

「うん」

「エルフの魔法、見せてもらえませんか?」

「いいけどダメ」

「いいけどダメ!?」


 さっきまで胸を張って誇らしげだったウィスタが、急に下手に出るのでどうしたのかと思ったが。


「遊びやお試しで使ってはいけない。それがいいと覚えてしまうから」

「どういうことにゃ?」

「エルフの魔法は精霊魔法。術者だけでなく、精霊と呼ばれる高位存在と交信して魔法効果をもたらすのですよ」

「そう伝わっているのか」


 大きく間違ってはいない。

 が、何というか、うん、間違ってはいないのだけれども。


「違いましたか?」

「いや、その、子育て?」

「子育て?」

「獣を飼う?」

「獣を飼う?」


 ウィスタが復唱人間になった。


「精霊は精霊だから精霊なのだが、別の言葉にしようとすると難しい。エルフの魔法を覚えればわかってもらえると思う」

「何年かかりました?」

「前段階で十年ほど」

「ですよね」


 精霊との付き合い方を事前に学ぶのにそれくらいかかったのだ。

 エルエルは当時まだ子供だったが、道理をわきまえている人物であればもっと短くて済むだろうと思う。思うだけでわざわざ言わなかったが。


「必要な時に使うものだから、野営の時に使う。今はわかるような魔法は必要ないから」

「と言うと何か使っているのですか?」

「流れる風の様子を感じている」


 見る聞くと近い感覚。

 精霊の力に関わる感覚を共にする。


 移動の邪魔にならない程度に獲物になりそうなものがいないか、感じていた。


 できれば、今日もお肉食べたいし。

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