29.エルエル、また会う
「そんなことがあったのか。ちょっと気になるな」
宿場町で一晩を過ごし、次の朝。
エルエルたちは野営地を夜中に出発することになり、前日は早く到着したのでゆっくり休むことができたし、肉も食べた。
クーニャではないが、寝る時間を確保できたので、徹夜の夜間移動の負担はさほど残っていない。
そして今日、この宿場町にある冒険者ギルドでエルエルたちは別のパーティと落ち合うことになっていた。
エルエルたちも、相手も、昨晩到着の予定だった。
こちらは早く到着したので、宿を確保したのち、ギルドに伝言を残したのだが、結局連絡はなかった。
そして朝、出発前に顔を出すと、落ち合う予定だった相手、ザッカーのB級冒険者パーティである剣の風の面々と、ばったり顔をあわせたのだった。
そして、ギルドの会議室を借りて情報交換となったのである。
この宿場町の冒険者ギルドは規模が小さい。
町の規模に見合った規模、ということもあるし、ザッカーのギルドの出張所であるということもあるという。
基本的に冒険者ギルドは街ごとに独立しているものだ。
しかし、緩く連携している。
冒険者が、街に所属すると同時に街の外が主な活動場所であるためだ。
それぞれの活動でもめ事が起きるたびに特別な使者を出したり戦争したりしていては非効率極まりない。ただでさえ人間には外敵が多いのだ。
同時に例外もあり、一つの町に複数のギルドがあることもあれば、複数の町をまたいで統括している場所もある。
この宿場町は後者だった。
なぜかというと……キノコははっきりとした答えを持っていなかったが。
仮説として、新人を加入、育成できないから組織が維持できないためではないかと言っていた。
ほかに、宿場町ができる前からザッカーのギルドの縄張りだったからなど。
考えながら話していたので、あくまで想像であり、確かなことではないだろう。
実際のところはわからない。調べればわかるかもしれないが、エルエルとしてはそれほど興味がわかなかった。見聞というお役目のために、そのうち調べてもいいかもしれない。
ともあれ、ザッカーにいる時と同じように扱ってもらえるし、必要なら部屋を貸してもくれるわけである。
エルエルたちはザッカー冒険者ギルドからの依頼で動いているので、遠慮はいらない。
もうちょっと広くてもいいのではないかと思う部屋に七人詰め込まれてお話だ。
なお、ギルド出張所の職員にはどちらのパーティも報告済みである。
よくわからない置物や剥製が置かれていたりする。会議室と見せかけた物置かもしれない。
「よその冒険者が出稼ぎや通りすがることはよくあることだ。金属鎧でアイレンというのも違和感はないし、偽装にしても高価だからな、他を騙るほうが安くつくはず」
そして、剣の風の剣士エクスに、特に何もなかったオーガの痕跡と、なにかあった人間相手のことを伝えたのだった。
「賊の方は確かに理解できませんが、本人にはそうする必然性があったのでしょうね。別に仲間がいて、あまりに鮮やかに撃退されたのであきらめたと考えるのがわかりやすい物語でしょうが」
剣の風の二人の女性の片割れ、魔法使いだという人間が、立てた人差し指を頬に当てながら言う。
確か、名はウィスタ。
特徴的な意匠の衣装は、伝統的な人間の魔法使いのものらしい。ただし、冒険者としての活動に合わせて独自に工夫はされているようだ。キノコもクーニャも一目で魔法使いだと判断するくらいの範囲で。
つば広の三角帽子か、精霊樹の大きな杖か、宝石が鈴なりになっている首飾りか、複雑な文様が描かれた長衣か。動きやすいようにか腰のあたりまでの切れ目がいくつか入っている。あるいは複雑に編み込まれた髪か。
そういえば、簡単に魔法覚える方法が広まっているようだが、魔法使いは大丈夫なのだろうか。簡単なものだけとは言っていたが。
冒険者ギルドについて知ったことを魔法使いに当てはめると、未熟な魔法使いが育つ土壌が奪われているのではないか。
エルエルはそこまで考えて、余計なことかと振り払った。
エルエルが認識していないところでうまく調整しているに違いない。
近いうちに見えてくることだろう。十年か二十年くらい暮らしていれば。あせって考えすぎて視野が狭くなってはいけない。気を付けようとエルエルは思った。
さておき。
「夜目が効き、襲撃の失敗を悟り速やかに撤収できる、それもエルエルちゃんに気づかれない。そんな凄腕集団が潜んでいたら、恐るべき脅威になります。が、そんな集団がお粗末な襲撃をするなんて考えにくい」
エルエルちゃん。
「確かに。確認されたのがひとりで、エルエルちゃんから丸見えだったというのが傍証になるか」
エクスまでエルエルちゃん。
「あ、すまない、こいつがそう呼びだしてから定着してしまって……エルエル殿」
「かまわない。朱の森でもエルエルちゃんと呼ぶ方がいたと思いだしてしまった。私だけでなく全員をそう呼ぶのだが」
「あら、気が合いそうですね」
「長老のひとりだ」
「ぶはっ」
剣の風の四人のうち三人がふきだした。
残る一人のウィスタはとても笑顔だった。
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