28.エルエル、宿場町で食べる
わからないことがあると、モヤモヤする。
オーガもそう。
今回もそう。
生かして捕まえていれば、あるいは情報を得られたかもしれない。
わからないことは本人に聞くのが一番だ。
しかし、それはできなくなった。
命を絶ったからだ。
「いや、死者から情報を取り出す手段はあるらしいぞ」
「そうなのか」
宿場町。
石の壁ほどではないが、強固な材木の柵で囲われて、多数の宿を中心とした街だ。
獣車の移動距離に合わせて、安全に宿泊するため行商ギルドがその総力を集めて開発維持しているという。
国から統治のための役人は派遣されているし税も支払っているが、守衛は傭兵であるし運営の実権は行商ギルドが握っている。
こういった場所の守衛、用心棒は冒険者が引退した後のそういう意味で冒険者ギルドも一枚かんでいると言えるだろう。
安全な街道の移動というのは行商ギルドの宿願だ。
危険な獣、盗賊、魔獣。
人間の危険を脅かす存在はこの世界にあふれている。
その中でも危険なのは夜。
夜を安全に過ごすにはいろいろな準備が必要だ。
しかしちょうどいい場所に防衛力を備えた安全な拠点があればどうだろう。
食べ物も、水も運んでくればいい。
運ぶのは行商ギルドの仕事になる。
安全に眠れる場所を作ろう。
そうやって生まれたのがこの宿場町というものであった。
あらゆる街道で一度も野営しなくてもすむように整備すること。
それが行商ギルドの目標なのである。
という話はいったん関係ない。キノコが聞いた話、エルエルにしてみればまた聞きの話。
ともあれそんな宿場町で宿をとり、落ち着いて。
エルエルは反省していた。
わからないことを調べるには手がかかる。
だから今こうして調査の仕事をしているわけでもある。
死者から情報を取り出せるなら必要ないのではないだろうか。
「高位の聖職者や死霊術師なら死者の魂から話を聞けるらしい」
「そんなことができるのにゃ?」
「教えてくれた人は嘘を言う人じゃないから本当なんだろう」
イノブタの焼肉盛り合わせ秘伝のたれを添えて、という料理。
生肉の切り身状態で提供され、目の前の火にかけられた網で自ら焼いて食べるという、料理かと言われると首をかしげるが、好みの焼き具合で食べられるというのはなかなかいい考えかもしれない。
準備と片づけをしなくてよいし、肉を焼くのに便利な道具一式も使える。何より秘伝のたれが肉に合っているのがよいところだ。
ただ、食べるところだけ見れば野営でやることと大差ないというところが少しばかり残念だった。
「死者蘇生や死霊使役の前段階ということか」
「ああ、そうかもしれないな。そういわれると関係なさそうな職業の組み合わせがわかるな」
「ふーっ! ふーっ!」
熱いのが苦手なクーニャが肉を冷ましている。
猪の脂は焼きたて熱々が一番で、冷めるとちょっと風味が悪くなるという説を支持しているエルエルとしては、クーニャの行為はもったいないと感じていた。とはいえ、熱いものが苦手というのはそれほどのことなのだろう。大丈夫なら我慢して食べたほうがおいしいのに、それをしないのだから。
しかし、こうなるのであれば、別の店を選ぶべきだったかもしれない。クーニャが大変だ。熱くない料理も選べる店にすればよかったのではないか。
そこまで考えたところでふと気が付いた。
イノブタと猪では違う可能性だ。
豚と猪の合いの子であるが、もともとブタは猪を人間たちが家畜化した生き物だ。大まかな性質は同じと考えられる。
とはいえちょっとした要素の違いで性質が変わることはよくあることだ。
イノブタになれば多少冷めてもおいしくいただける可能性はある。
エルエルはお肉を冷ましてみるか、すぐに食べるか悩んだ。
悩みながらお肉を食べた。
悩んでいる間は冷まさずに次々焼かれていく肉を口に運ぶ。
「野菜も食ったほうがいいらしいぞ。胸焼けしなくなるんだと」
「そうなのか」
「野菜もう生で食っていいにゃ?」
「火は通すんだ。焼いた後冷ませ」
「うにゃあ」
火には病や毒を浄化してくれる性質がある。
特に傷みかけの食べ物に有効で、もともと毒を持つものにはほとんど効かないが、しっかり焼くことでおなかを壊しにくくなる。
エルエルは輪切りにされた年輪状の野菜の色が変わってきたところで食べてみた。
ほのかに甘い。
そして、なんとなく口の中がさっぱりした気がする。
「でもそれならなんであちしらが調査とかしてるにゃ?」
「高位の聖職者なんてそうそう居ないし、居ても動けないんだろ」
「それじゃあ出来ても出来なくても関係ないにゃ」
「まあなあ」
エルエルは、結局お肉を冷ませなかった
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