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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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27.エルエル、夜歩き

いつもお読みいただきありがとうございます。

しばらく忙しいので更新ペースを落とします。

今後ともよろしくお願いいたします。

 エルエルたちは先に出発した。

 まだ夜半であり、月と星のあかりしかないが、三人中二人は支障がない。

 支障があるキノコも、手持ちのあかりなしで街道を歩いていた。


「結局なんだったのにゃ? 眠いのにゃ……エルエルなんて寝てないのにゃ」


 エルエルは前半見張当番で、睡眠をとる番が回ってくる前に事件が起きたので寝ていない。

 その気になれば数日寝ずに動くことはできるが、眠る時間を取れるならその方がよかった。


 とはいえそういう状況ではなかったので仕方がない。


「結局、何を思って一人で襲撃してきたのかわからない」

「俺にもわからん。アイレンの銀級がとぼけているのかもしれないし、本当に関係なかったかもしれない。別動隊がいたかもしれないが、どうだった?」

「わかる範囲ではいなかった」

「じゃあ、アイレンのと俺たちを争わせようとしたか? いや、E級と銀級、人数も向こうが上じゃ、普通は勝負にならないからな……単純にバレずに殺せると思ったのかもしれん」


 一旦敵じゃないという合意をしたものの、あのアイレンの銀級というパーティの疑いが晴れているわけではなかった。

 それは向こうにとってのこちらも同じだ。

 まずないだろうと思っても、実際に人死にが出て自分たちが犯人ではないとなればもう一方を疑う心を消すのは難しい。

 朱の森でも、まさか長老がつまみ食いしたとは思いたくないが状況的に他にいなかったので一応長老が疑われたということがあった。犯人は長老だった。

 事件が起きてしまえば何でも怪しく見えるのだ。そして意外な真実が判明することもある。


 なので、お互い信用できないとは口に出さないまま、早々に別れたのだ。穏当で無難な選択。


 なお、死体は向こうが持ち物を調べ、エルエルが地の底に流した。

 毒を持っていたが、狩人も使うものだったので何かの証拠にはならないだろう。

 荷物はお金だけ半分ずつ分けて残りは一緒に地の底だ。

 変に疑われると面倒だという向こうの主張に乗った形だ。


 つまるところ証拠隠滅。

 真相は土の下。

 お互い見なかったことにしよう。


「壁の外で起きることまで領主さまも管理できないからな。よほど被害や手口が悪辣なら騎士団が動くし、賞金がかかれば賞金稼ぎが動く。そうでもなければ自衛するしかない」

「本当、冒険者は大変なお仕事にゃ。行商とかもそうだけどにゃ」


 名の知られた盗賊でもなければ賞金もかかっていない。

 通せんぼして通行料を取るような連中なら名前が付けられて賞金がかかることもある。

 だが目撃者を消すような残忍で狡猾な手口の相手ならそもそも発覚しにくい。

 なので顔も名前も売れていない者を盗賊だと言って首でも持って行ったとして、それで何があるかと言えば事情聴取である。

 襲われた証拠なんてない。

 噓看破の魔法があるらしいが、使い手を信用できるかというと。

 盗賊を退治する仕事でも受けていれば話が変わるし、盗賊が出る噂が立っていて、信用されるような実績があればこれも話が別。

 しかし下級冒険者にそんなものはない。

 少なくとも念のため追いはぎを疑われる。

 人の首を持ってきたものすべてに、仮に報奨金でも与えていたら、街の外は人間同士殺し合う世界になっているだろう。

 今回は特に、謎の行動で賊一人。なんで襲ってきたのかわからないような事件だ。

 相当怪しい。


 そんな話をキノコが語ってくれた。


「キノコは物知りだな」

「先輩方の受け売りだよ。身を守るためだ」

「大事なことだ。キノコと同じ。知らなければ毒を食べることになる」

「ひとりが知ってるだけでも助かるのに教えてくれるから助かるにゃ」


 キノコが躓いて転びそうになったのでクーニャとエルエルは二人で支えた。


「とはいえ、やはり気にはなる」

「日が昇るまでに襲われなきゃ、奴が自分の能力を過信していただけだろう」

「襲われるのにゃ?」

「ああ。ちょっと考えたんだがな」


 あの賊がひとりではなく仲間がいるという前提で考えた場合。

 そしてエルエルの言うようにそれらしいものが近くにいないとすると。

 あり得るのは道中の待ち伏せである。


 ひとりを殺傷して自身は姿をくらませる。

 疑心暗鬼が生じエルエルたちとアイレンの銀級が揉める。

 人数が少なく格が低いエルエルたちが逃げる。

 行先はザッカーが濃厚。待ち伏せしやすい場所で仕掛ける。

 という計画だ。


「不確定な要素が多くないか」

「なんか余計な手間と危険を冒してる気がするにゃ」

「俺もそう思う。単独犯が判断を間違えておかしなことをしたと考えるほうがなんぼかましかな」


 キノコも無理やりひねり出した回答だったらしい。


「暗い中、エルエルを正確に狙えるだけの腕があるやつだったんだ。エルエルはフードを被っていたからエルフだとは想像もしなかったとして、本人はE級パーティの見張を殺すつもりだった」

「対処しなければ喉に当たっていた」


 喉だと生き残ることもあるが、声を上げられなくもなるだろう。毒を使えばもっとうまくいくはずだ。

 エルエルは狙うなら目が一番いいと思うが、フードで見えなかったかもしれない。もともと小さいので狙いにくいため、避けたのだろう。


「だから、……だから……」

「わかんないにゃ」

「うん」


 襲撃はなく、日が昇ってすぐに宿場町に到着した。

 街道の異変はエルエルが確認したが、これも特にみられなかった。


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