26.エルエル、お話しする
今日、この野営場を利用しているのはエルエルたちを含めて二組。
これが多いのか少ないのかはわからない。
ただ、略奪を行うなら少ないほうが都合がいいことは理解できる。
奪える物も少ないという考え方もあるかもしれないが。
木の上に果物が生っていたら、ちょっと高いところで万一落ちたら痛いとしても採ろうとしてみるだろう。
木登りに失敗することなんてそうそうない。
だが、森守があれ採っちゃだめだぞと言って弓を構えて見張っていたらどうだろうか。
見ていない時を狙うか、交渉するか、あきらめる。
現状、エルエルたちが果物であり、果物を見つけたのがもう一方のパーティという疑いがあった。
森守はいないように見えたのだろう。
エルエルは矢を番えつつも地面に向けて周囲を警戒している。
クーニャは天幕の中で荷物をまとめている。
キノコは焚火の火をランタンに移していた。油がもったいねえと漏らしながら。
「エルエル、一つ尋ねるが、近づかずに声を伝える手段はないか」
「ある」
「合図したらあっちに届くようにしてくれ。クーニャ、いつでも荷物持って逃げられるように。森に飛び込めば俺らが有利だ。エルエルもそのつもりで……よし頼む」
エルエルは、キノコの声をあちらのパーティの見張りがいる付近に流れるようにしてもらう。
「聞こえるか。昨日あいさつしたザッカーのケイだ。明かりを回して見せるから確認――」
声が届いた途端、見張りは跳び上がってひっくり返った。
「ありゃ」
果物を狙う狡猾な盗人のようには見えなかった。
「こいつは確かに俺たちに同行していたやつだ」
弓を持ったまま、目に矢が刺さり倒れている男を見て、金属鎧の男がそう言った。
野営していたパーティは、金属鎧の男と金属鎧の男と金属鎧の男と金属鎧の男の四人組だった。エルエルに矢を向けてきたものは革鎧だったが。
その革鎧の男を、全員で確認しに来ていた。
野営場から少し離れた茂み。
弓の射程からすると近いが、身を隠すなら充分な距離。エルフの目には、移動中の様子が丸見えだったので気づけたのだ。
「前の宿場の酒場で意気投合して、ザッカーまで一緒にいこうとなったんだ。パーティを組んでいるわけじゃない」
彼らの言うことには。
アイレンという街を拠点とする銀級冒険者であり。
甘いものを食べにザッカーに向かっていたのだそうだ。
なるほど、気持ちはわかる。
甘いものを食べたい。また食べたい。お金を稼がないといけない。
銀級というのは、アイレンの冒険者の評価指標で、ザッカーで言うところのD級からC級に当たるそうだ。
地域によって評価の仕方が変わるらしい。ややこしいことだが、エルフが森ごとに多少違いがあるように、人間も場所によって事情が異なるのだとか。
そしてアイレンの街は金属加工技術が得意で、食事はあまりおいしくないらしい。
なるほど、それは甘いものも食べたくなるだろう。
「おい、本当にこいつがお前らを襲ったのか?」
「暗い中こんな距離で一撃で射殺せるものか?」
金属鎧の男と金属鎧の男がエルエルたちを疑っているが、見張りだった金属鎧の男がそれをいさめた。
「こいつは用を足しに行くと言って離れて行った。そのときこいつらに動きはなかったぜ」
「そうか、だがな……」
アイレンの銀級は先に同行していた男がこんなことをした、というのが信じがたいらしい。
「この男が矢を射ってきたことは証立てられる」
「なんだと?」
信じがたいようなので、エルエルは事実だと示すために動くことにした。
男の位置と、エルエルたちの野営場所を結ぶ直線状にそれはある。
「なんだこいつは」
「矢と矢が食いあってる?」
野営地寄り、四分の三あたりの位置に、エルエルの矢が落ちていた。
相手が放った矢と一緒に。
正面からぶつかって、向こうの矢じりが砕け、エルエルの矢が向こうの矢に食い込んでいた。
「こちらがあとから射なければこの位置にはならない。先に射てきたのはあちら。正面からぶつからなければこうならない。狙われたのは私」
エルエルの矢がよほど遅く、相手の矢が三倍以上速かったとすると逆もあり得るが、そんな技量の持ち主ならば、目を撃ち抜かれているのはおかしい。
アイレンの銀級たちは得体を知れないものを見るような視線をエルエルに向けてくる。
そして。
「これだけの腕があれば殺さずに残して話を聞き出せたんじゃないのか」
「仲間がいる可能性が濃厚だった。結果として一人だったようだがな。こいつがあんたたちと一緒にいたのは確認してたんだ。挟み撃ちは避けたい。そうだろ?」
金属鎧の男が絞り出すように訊いてくると、キノコがエルエルの前に出て言い返す。
「そりゃあ、そうだな。だが」
「アイレンの。あんたらがこの男と連携している様子がなかったから、仲間ではないのかもしれないと、あとから認識した。そうなると俺たちが逆に疑われかねない。襲撃直後に警告を発さなかったからな。だから状況を共有した」
「ああ、俺たちは賊の仲間じゃない。ザッカーの。あんたたちもそうだ。俺たちがやり合う必要はない。そうだな?」
「同意見だ」
キノコと金属鎧の男が頷き合った。
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