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朱の森のエルエル  作者: ほすてふ


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24.エルエル、野営する

みんなー!ブクマとか星とかありがとう!

 街道の脇に草が刈り払われ、地面が踏み固められた場所があった。

 焚火の後が点在し、端っこに小さく簡単な祠がある。

 エルエルたちのほかに、休んでいる小集団がいくつかある。

 詰めれば十組くらいは入れるだろうか。


「ここが野営場所だ」


 キノコがそう宣言すると、クーニャが空を見上げる。


「まだ日が高いにゃ?」

「日が高いうちに野営の準備しないと大変だからな」

「にゃ?」

「?」

「人間にとっては」


 そういえば、人間は暗いとほとんど見えないのだった。

 エルエルはさも分かっていたかのように頷いた。


「野営は準備に時間をかければかけるほど快適になるが、そのぶん撤収も時間がかかるし荷物も増える。どうするかは旅程計画次第だが、パーティ内でしっかり共有しておくこと」

「共有してなかったにゃ」

「うん」

「七日かけるし教えるからって言っておいただろ」

「でも共有はしてなかったにゃ」

「うん」

「次から!」

「にゃ」

「うん」


 エルエルとしては、単独での野営は経験しているのでどうにでもなるだろうと思っていた。森に入れば。

 朱の森から藍の森まで旅をした実績もある。

 とはいえ、街道は人の領域なのでキノコの指導を受けるのはやぶさかではない。

 人間と協力して動くこともあるだろうし、街道の歩きやすさは今日十分に堪能した。土と比べて固いことは気を付けたほうがいいかもしれないが。

 利用するうえで知っておくべき情報はあるだろう。


「先に誰かいたらできるだけ離れるのが基本だ。それはそれとしてあいさつにはいく。パーティリーダーがいくのが基本だな。相手が警戒してたらやめておくこと」


 キノコはそういって場所を選定し、エルエルたちに天幕の設置を指示して挨拶に行ってしまった。


「これ使い方わかるにゃ?」

「見たこともない」

「広げてみるかにゃ」


 モタモタしていたらキノコが帰ってきてしまった。


「ああ、すまん、俺が悪かった。知らないものはわからなくて当然だ」


 それから、キノコの指示に従って抑えたり紐を結んだりすると、外から見えない三角の布の部屋のようなものが完成した。


「荷物はこの中。寝るときは中で寝る。天幕の立て方はいろいろあるから、買う時に確認してくれ」

「これで三人で寝るのか?」


 少々狭くはなかろうか。

 エルエルの見立てだと、荷物に、かなり頑張って二人できつきつだろう。


「大きめの一人用テントだからな。ひとりは見張り。俺は外で寝るから大丈夫だ」

「なんで一人用ひとつなのにゃ?」

「結構高いから。お前らもカネ貯めて自分の分買うんだぞ」

「そうかにゃ」

「それならキノコが中で寝るべきでは?」

「寝てる女は人目に触れないようにした方がいいんだよ。魔が差すやつが出るから」

「そうなのか」


 昨夜、キノコだけ雑魚寝部屋に宿泊したのと同じか。


「あとは着替えとか、体拭くときはその中で。見張りが必要だからそういう時や寝る時以外は外だな」

「わかったにゃ」

「わかった。鳥はどうする?」

「どうするかな。焼くか煮るか」



 丸焼きにした。

 普段と違ったのは、昨日宿場で購入した肉焼き用調味料を塗ってみたことだ。

 ベースは焦げ茶色だが、複数の材料が調合されているという。

 たっぷり時間をかけてじっくりあぶる。


「早く野営を始めればこうして調理に時間を取れるわけだ。それにしても暴力的な匂いだなこれは」

「おなかが鳴るのにゃあ」


 今回は一番面倒な羽根むしりを簡単に済ませられたのだが、鳥もそうだし獣も狩って調理に至るには時間も準備も必要だ。

 猪くらいの大きさなら半日仕事である。

 旅しながらとなると、うまいところだけ切り出して残りは埋めるなどもったいないことになるだろう。森の奥なら獣に任せる手もあるけれども。

 作業中、ほかの肉食獣などが寄ってくると作業が進まなくなるのであまり手間をかけられない。

 そこを短縮できる、キノコが言っていた魔法は大変すばらしいと思う。

 ぜひエルフの里に持ち帰りたいが、どうだろう。


 それにしても、この秘伝らしい調味料の香ばしい匂いこそ、どうだろう!

 基本となっているのは昨日の魚の煮つけに使われていた豆を加工させて作ったという調味料と砂糖ではないかと思う。

 より濃厚で、どろどろしているのが大きく違うが。色々混ぜてあると言う通りなのだろう。

 大蒜は入っているだろう。


 とにかく炙っていくとどんどん匂いが立ち込めてくる。

 キノコが言った、暴力的という表現はまさにというもので、おなかがガンガン刺激されまだかまだかと鳴りそうだ。

 これは丸焼きではなく、解体して早く火を通したほうがよかった。

 そしてこんな匂いは獣を呼び寄せそうで危ないので、高空まで流し散らしてもらった。


「今回はエルエルが鳥を獲ってくれたし、整備された街道だからうまいものが食えそうだが、そうじゃなければまたかわってくる。保存食はうまくない。少しでもうまく食う方法もあったりなかったりするから、教えてもらえそうなときは教えてもらえよ」

「うにゃー」

「あいまいな言い方だ」


 クーニャは肉と調味料の焼ける匂いに夢中で聞こえているのかわからない。

 エルエルはゆっくりと鳥を回転させながら答えた。


「具体的に言っても同じものが手に入るかわからないしな。街とか人とかで変わるんだ。ザッカーの冒険者ギルドは干し肉をうまく食うためのスープのもとを売ってる。鍋に干し肉とそれと水を入れて煮込むだけだ。干し肉ほど日持ちはしないが」

「なるほど。エルフの保存栄養食は味はおいしいのだけど」

「ほう」

「ひとかけらで三日食べずに動けるんだ」

「すごいじゃないか!」

「三日食べられないんだ」

「うん?」

「食事の回数は多いほうがよくないか。準備と手間は大変だけれど」

「そ、そうか?」

「まあ熟練の薬師でないと作れないから森の外では手に入らないだろう」


 キノコが形容しがたい複雑な表情をしていた。



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