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五年で私を愛せなければ離縁してください(旧題 こだわりが謎である)  作者: 黛ちまた


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大事な点。そこだけは譲れない。

 学院時代、騎士に憧れている学友がいた。彼女と仲良くしておけば良かったと今更ながらに後悔している。

 そうして彼女と騎士の追っかけでもしていたなら、私は自分の好みをもっと早い段階に知ることが出来たのかも知れない。

 騎士と仲良くなったり……。


 学院時代の私は地味なだけの令嬢だった。いくら騎士候補の方たちに恋をしたとして、望む結果が得られたかどうかは別の話だ。

 恋をしたなら容姿を磨く努力はしていたと思うけれど、今のようになれていたかも分からないし、その恋が実るかも不明。

 もしもはないのだ。


「コルネリア?」


 名前を呼ばれて顔を上げる。

 相変わらず美しい夫の顔。逞しさとは縁遠そうな容姿。

 ……いや、でも、クラウス様は整った顔立ちだ。けれど脱いだらお腹が割れている。逞しい肉体の持ち主。……と、言うことは、シュテファン様も……?

 視線をシュテファン様のお腹に向ける。

 割れてはいないけれど、出ている訳ではないし、鍛えたらあの肉体に……?


「どうかしたのか? 気分が悪いなら横に」


「シュテファン様」


「なんだ?」


「身体を動かすことはお嫌いですか? 鍛錬と申しますか」


「え? 鍛錬?」


 私の問いにシュテファン様が目を丸くする。


「はい」


「正直に言ってとても苦手だ。ダンスはそうでもないが……それがどうかしたか?」


 困ったような顔をしつつも答えてくれた。

 やらないならまだしも、とても苦手だとは……。

 シュテファン様が身体を鍛えて下さるのが私にとって一番良いのだけれど、人に無理強いは出来ない。

 私を愛して下さる奇特な方だというのに、これ以上多くを求めて目の前の幸運を逃す訳にはいかない。


「いえ、少し気になっただけです」


 かくなる上は、騎士の模擬戦などの見学に……。鍛えられた身体が見えるような格好ではしないわよね……。

 それなら歌劇で観られるかしら?

 騎士と姫、騎士と令嬢……手に汗握る展開ならば鎧を着ていないとか、そのような状況に……。







「諦めた方が良いんじゃないかしら?」


 姉と違って歌劇好きなユリアは、毎回私の歌劇鑑賞に付き合ってくれた。

 今日も私と一緒に歌劇を観て、今はリヒツェンハイン家のサロンでおしゃべりをしている。

 突如として鍛えられた肉体に関心を抱いた私は、騎士が登場する歌劇を観た。脇役が騎士でも良い。

 とにかく逞しい男性が出ていそうなものを片っ端から観たのだ。

 そして夢は破れた……。

 当然と言えば当然なのだ。歌劇を演じている者たちは騎士でもなんでもない。だから鍛えられた肉体など持っていない。


「そのようね……」


「そんなに鍛えられた男性が良いのなら、シュテファン様にお願いすれば良いのではなくて?」


 至極もっともな妹の言葉に頷きながら、おかわりのお茶をカップに注ぐ。


「しようと思ったけれど、身体を動かすことはお嫌いなのですって。それに王太子殿下の側近となられてお忙しいの。とてもじゃないけれどそんなこと言えないわ」


 望みは薄い……。


「そうなの。それは残念だけれど、仕方ないわね」


「えぇ。無理強いは出来ないもの」


「無理強いは出来ないと分かっているけれど、逞しい男性への関心も断つことが出来ないのね?」


「そうね」


 既に人の妻となった身だし、色々と分かったこともあるから、シュテファン様とどうこうしてまで手に入れたいものでもない。


「あの時は少しだけ焦ってしまったわ。まさかネリー姉様がクラウス様に想いを寄せたのかと思って」


「ごめんなさい、不安にさせて。それはないの」


 確かにクラウス様は美丈夫だし、逞しい身体の持ち主だけれど、好きになるかと言われたらそれは別の話。

 見惚れることはあっても、すぐさま恋に結び付くものではない。一目で恋に落ちるということもあるから、一概に否定は出来ないけれど。


「程々に追いかけて諦めなくては。夫のある身で伴侶以外の身体を見たがるなんて破廉恥ですもの」


 これまでの人生の中で目にすることがあったなら、気付いただろう己の好み。けれど目にすることはなかった。普通に生きていればやはり目にすることはないのだと思う。それこそ、浮気でもしない限り。

 シュテファン様を頭に浮かべる。

 近頃私が歌劇ばかり観ていて、侯爵夫人になる為の務めが疎かになっていても、文句も言わず笑顔で送り出してくれる。私のやりたいことをやりたいようにやらせてくれているのだ。

 率直に、彼以上に私を大切にしてくれる人はいないと思う。自分を卑下しているのではなくて、本気でそう思っている。


「ネリー姉様は真面目ね。そこが良いところだけれど。他の夫人なら恋人を作るわよ?」


「逞しい方が良いとは言ったけれど、鍛えられた方ならどなたでも良い訳じゃないのよ?」


 夫に満足出来なければ恋人を、というのが貴族では一般的だ。


「そうなの?」


「鍛えられて割れたお腹を持った方でないと」


「逞しい腕だとか厚い胸板ではなくて?」


 想像する。

 何故かお顔がシュテファン様だけれど、気にしないことにする。


「素敵だとは思うわよ? けれど割れたお腹は外せないの。それと荒っぽい方も嫌なの。言葉遣いとか」


「……姉様って、面倒ね」


「そうみたいね。私も初めて知ったわ」


 理想を口にするだけなので許して欲しい。

 私は恋人を持つ気などないのだから。


「なんなのかしら、その執着」


「こだわりと柔らかく表現して欲しいわ」


 呆れた顔をされたけれど気にしない。

 

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